「自転車のまちづくり」を目指して
「自転車のまちづくり」とは?
ヨーロッパ自転車ライフ−オランダの自転車通勤奨励策、ドイツの自転車旅行
                                             
中村博司
 
 

自転車先進国と言われる北西ヨーロッパの国々。その中で2004年秋に私が訪問したオランダでは日常生活の中で活用される自転車を多く見た。
ドイツはサイクリングを楽しむ人を多く見た。同じヨーロッパでも気候、風土、文化によって自転車の使われ方が異なる。
今、日本では自転車通勤が毎年少しずつだが増加している。そこで自転車通勤を推進する為に何が必要かオランダの実状を述べてみたい。この内容については、オランダの交通立案者ヴァン・デル・ラーン氏のレポートを最近入手したのでデータなどを引用している。
彼はオランダで自転車がよく利用される理由として、平らな地形、温暖な気候、高い人口密度を上げている。オランダの人口密度は1平方キロメーターあたり472人であり、イギリス(246人)やドイツ(236人)に比べ2倍ほど高い。ちなみに日本は330人で、その中間である。しかし都市部の密度は500人を越えている。私は人口密度が理由として挙げられるのは、近距離移動に適している自転車の特長が活かせるからだと思う。
オランダの自転車社会の歴史を振り返ろう。モータリゼーションは1950年代にやってきた。自動車による悪影響を考慮せず、誰もが自動車を持つ夢を持った。地方自治体の政策決定者は都市を自動車交通に適したように変えようとし、路面電車やバスは住宅地域と都市を結ぶ補完的交通として考えられ、自転車は住宅地域内の利用のみと考えられていた。
しかし1970年代に入ると自動車中心の交通政策は見直しを迫られた。
自転車が健康的で環境にやさしく場所もとらず、都会の混雑の解決策として再び見直されたのだ。
そこで安全で魅力的な自転車道路を建設することになった。
オランダの自転車専用道は5つの点を守るように作られる。5つの点とは安全性、一貫性、直通性、快適性、魅力である。
しかし、サイクリストを事故から守るための安全対策はこれらの5つの点を邪魔してしまうこともある。
また交通政策書では、自転車の優先権を入れているが、実際には車が主流の交通事情のため、また安全性のため、自転車が信号で待たされることが多い。
1990年に自転車利用を促進するために、オランダの自転車マスタープランが作られ、多くの調査が行われたが、自転車利用の驚異的増加はなかった。
1995年から環境問題、交通渋滞緩和政策として自動車から自転車への乗換えを奨励する「企業の自転車」と呼ばれる企業に対する税法上優遇制度を導入された。
この制度は、企業は従業員が自転車を購入する時に補助した総費用、また企業が自ら自転車を購入して従業員に貸与した費用(対象となる従業員に3年に1度、749ユーロを上限として)を企業の経費として認めるというものだ。
対象となる社員は1日15km以上の距離を年間勤務日数の半分以上を自転車通勤することが条件となっている。
2001年には自転車通勤者に対し所得税から控除する「自転車通勤控除制度」が導入された。週3回の10km以上の距離を自転車通勤すると所得税から年額362ユーロが控除される制度であったが、2003年に税制簡素化のため廃止された。
オランダにおいて使われた移動手段だが、2001年の数値によると自転車は26%、自動車(運転者は32%、同乗者は16%)モペッドは1%、徒歩は2%、電車は2%、バスは3%、残り18%はオートバイ等別の手段であった。今後自転車利用が増加する可能性は大いにある。
全ての移動の80%は15km以下であり、自動車による移動の多くは自転車でも可能であるからだ。
また駐車の手間とコストは決して無視できない。そうした自転車の利点は徐々に交通立案者に受入れられている。
自転車利用者の年齢層と移動距離を示したデータがある。
最も自転車の移動距離が多いのは12歳から17歳で5km程だ。18歳から64歳までは男女にかかわらず2km程度だ。自転車利用に対する圧力もある。

・国民の高齢化や移住者の多くが自転車に乗る習慣のない国の出身という要因がある。

•  オランダの自転車利用は趣味というより交通手段としての利用の傾向が強い。身近に行政のサービスやお店があれば自転車利用を促進できるが、しばしば大規模な施設やショッピングセンターの出現は自動車利用を増やすことになる。

•  ここ10年でより多くの女性が仕事を持つようになり、自動車の所有台数が増加した。母親は子供を学校へ自動車で連れて行く。そのため学校近くで交通量が増えて危険だからと、誰もが車で子供を連れて行く悪循環が起きている。

•  オランダでも自転車に乗らない人も多い。「交通問題としての自転車利用の環境整備は終わっても良い」「自転車は危険」「雨の日は不便」「自転車は時代遅れ」と思い込んでいる人に説得することは困難である。

•  オランダでの自転車の盗難は年間100万台と推定されている。都市では結果として盗まれてもかまわない古い自転車が使われ、長い距離を走らなくなる。また古い自転車は自転車のイメージを下げる。その対策として現在、駐車場の数と質の改善がすすめられている。

将来の交通需要だが、1997年に比べ2020年まで40%の増加が予測されている。しかし、その増加の多くは自動車の61%で自転車利用は現状維持と考えられている。
しかし自動車交通の増加は「安全」「渋滞」「スペース」等、社会に対する深刻な問題を引起すにちがいない。
結果として、自転車の増加は「安全」「生活の質の向上」「低コスト」をもたらすことに気付くことになる。
別のプラスの面として、列車やバス、また自動車と組合せた自転車利用は増加すると思われる。駅のレンタサイクルシステムはさらに重要となるだろう。
オランダでは2003年に122万台の新車が販売され、そのうち500ユーロ(約70 , 000円)以上の自転車の比率は48%となっている。
高価な自転車が購入される理由として、走行距離が長いため、長年にわたり使用できる品質を求めるからと分析されていたが、こうした税制上の優遇処置も一役買っているのである。
税制の優遇を受けるために NFP (全国自転車計画)に加盟が必要だが、オランダの主要官庁や大手企業が参加し、この制度で年間20〜25万人の利用があるとのことである。
オランダにおける自転車活用の政策は、自転車道路や駐輪場といった利用環境整備は有名だが、こうした政策によっても推進しているのだ。
この政策がオランダの交通事情を大きく変えるだけの大きな成功を収めていないことも事実である。アムステルダムをはじめとする古い町並みを保存しながら、街の機能を維持し生活の質を守るものとして自転車の活用が市民に認められているので、こうした政策が可能なのだと思う。
自転車政策は長い時間と忍耐を必要とする政策であるとこのレポートは述べているように思う。次にドイツの自転車ライフを報告したい。
自転車旅行を楽しむ国民が多い国はどこか?
それは間違いなくドイツだ。ドイツ人の旅行好きは有名だ。
世界を旅した人は、ドイツ人の旅行者の多さをあげる。特に世界の辺境の地など、観光客がめったに行かないところでドイツ人に会ったという話はよく聞く。
最近ドイツで自転車旅行者が増加しているようだ。どうも自動車の旅、列車の旅を終えた人たちが、新たな旅の手段として自転車に注目しているようだ。ドイツ政府もサイクリング道路の整備に力を入れている。それはドイツ国民が夏休みになると外国へ旅行に行ってしまうので、国内でお金を使ってもらう為の経済政策として行っていると聞いている。
2004年のドイツ南部で開かれたユーロバイクショーで、会場の入口にドイツの有名な自転車旅行家の旅のシーンが展示されていた。森の中と砂漠の中でのテントと、そのときに使った自転車やキャンプ用品が並べてあった。
さらに未来の自転車旅行の提案として、三輪のリカンベントの旅行仕様もあり、来場者の大きな関心を集めていた。
このあと私はミュンヘンを訪れた。ミュンヘン中央駅の中にあったレンタサイクル店で、マウンテンバイクを借りて走り出した。
間もなく橋を渡ったので下を見ると、川沿いの深い並木に隠れるように幅の広い遊歩道が見えたので降りてみた。
道幅は8m程もあり、舗装されていないがよく踏み固められ、散歩している人も自転車も少なかったので気持ちよく走れた。
どんどん川をさかのぼってゆくように走るとまもなく広大な公園(イングリッシュガーデン)に入っていった。幅 1 km長さ 4 km程の広々とした公園で、走ってゆくと300頭ほどの羊の群れに出会った。
羊たち草をゆっくり食べて少しずつ移動している。
つまり公園の雑草除去は化石燃料を使う芝刈り機の代わりに羊を使い環境循環型の公園維持システムとして機能している。
また公園の中を走っていると一角に野外レストランがあり、昼時でもあったので食事をとった。多くの人でにぎわっていて、一様に大きなジョッキでビールと食事を楽しんでいた。
自転車で思う存分走れる環境が広々とした豊かな森の中にあり、疲れた体を休める野外レストランにはゆっくりした時間が流れているように思えた。
次に訪れたのはフライブルグである。フライブルグはドイツでも環境に配慮した街として名高く、ドイツの環境首都と呼ばれている。それは街の郊外に広がるドイツ人の心のふるさととも言われる黒い森(シュバルツバルト)が酸性雨で被害が多く出たことによるそうだ。
フライブルグ駅に隣接して「モバイル」という名の円筒形をした駐輪場があった。1階は駐車場だが2階3階の駐輪場には自転車専用道から直接入れる。日本でも駐輪場が線路の上に作られ、そのままホームに下りることが出来れば、駅前の不法駐輪の大半はなくなると思う。
4階は自転車店とカフェそして各種案内所があり、その中にADFC(ドイツサイクリストクラブ)の事務所もあった。
ADFCは、自転車利用の基盤整備を行政に進言したり、情報誌の発行、自転車旅行の企画実施するNPOである。
このモバイルで自転車を借りてフライブルグの郊外へ走り出した。
例によって川沿いに自転車道があったので走って行った。
川幅は広くない為川沿いの道は自転車がすれ違い出来る程度の幅しかない。しかも歩いている人もいるので、決して思う存分走れるわけではないが、皆マナー良く歩行者にも、対向する自転車にも配慮して走っているのに感心した。
郊外の田舎道は週末ということもあり、多くの人がサイクリングやランニング、ローラーブレードを楽しんでいた。川沿いの道に再び入り、街の中心部に戻ってみると、そこはトラム(路面電車)が主役の交通機関で自家用車の利用はきびしく制限されていた。
ミュンヘンやフライブルグで使われている自転車は高級スポーツ自転車が多かった。
早朝にフライブルグを出て、列車を乗り継いでミュンスターに行った。
この街はドイツの中でも自転車利用が多く、ドイツの自転車首都と呼ばれる28万人程の街だ。駅前広場の地下にはドイツ国内に100箇所程作られる予定の「ラート・スタチオン」の第 1 号があり、ガラス張りのモダンな姿はミュンスターの自転車モニュメントのようだ。この大規模駐輪場は自転車 3200 台が収容でき、レンタサイクルや修理コーナー、そして自転車洗車機がある事でも有名である。
この街はドイツの北部にあり、学生が多いこととオランダに近いこともあって日常生活に自転車を使うライフスタイルが定着している。自転車もオランダ風のメンテナンスが楽な内装変速機付の自転車が多い。
そんな 4 段変速機付きのレンタサイクルを借りて街中を走った。
昔の城壁の跡を広い自転車専用道とし、多くの自転車が快走しているのはとても素晴しいものだった。バス、タクシー以外の乗り入れを禁止している街の広場にはオープンカフェがあり、昼食をとりながら自転車と人を眺めた。人々はゆっくり楽しみながらショッピングや散歩をしている。
2つの国の自転車を活用し、豊かなライフスタイル実現している国を自転車で走ってみて、改めて自転車が都市にいかに必要なものかを実感できた。自転車政策は単に自転車交通を認めることではなく、自分の住む街を誇りに思え、住みやすい街にする政策であることが分かった。
今回の視察は世界でもトップクラスの所得水準にありながら、豊かさを実感できない日本の都市生活に、大いなる疑問を持つ欧州視察となった。

 

 
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