|
雑誌「effects1-2月情報号」より抜粋
松田朋子/予告編とCM──似て非なるもの
予告編は映画を宣伝するためにつくられる、一種の広告である。となれば、同じ映像による広告表現——CMとも基本的には同じはずだ。
だが、ふだんわれわれはこのふたつをかなり異なるものとしてとらえていないだろうか。
映画館でも予告編の前にCMを流すことがあるが、明らかに何かが違う。予告編とCM、この似て非なるふたつの世界を行き来するクリエイターなら、
その違いを解き明かしてくれるのではないか。そんな期待を抱いて、CM業界から予告編の世界に飛び込んだフリー演出家、松田朋子さんを訪ねてみた。
フィルムに人の存在を残すという奇蹟
CMと予告編でいちばん大きく違うのは、予告編には撮影がないってことですね(笑)。予告編は編集なので。
でも、本当はこのふたつを分けたくないんです。どちらにしても、やりたいことはひとつ。「いかに“人”を魅力的に伝えられるか」です。
だから、名刺の肩書もFilm Directorで統一しています。フィルムに人が写っている、ということにとても魅力を感じるんですよ。
その人がそこに確かに存在しているということをフィルムに残す。それは、とても奇蹟的なことだと思うんです。
しかもビデオと違って、フィルムは1コマ、1コマ手にとってみることができる。その人が背負っている時間や、撮影者のその人への愛情といったものまでもが、そこに詰め込まれていることを、実際に手の中で感じられるんです。
もともと、外からの刺激のない環境で育って、自閉的というか、あまり自分を外に伝える必要を感じない方だったんです。
それが、いつしか人に興味をもちはじめ、CMに入ってからますますその人が存在するということの奇蹟を感じるようになりました。
その気持ちを作品づくりに生かせたら幸福です。
CMであれ、予告編であれ、「何かを届けたい」という気持ちは同じです。映画それ自体も、そういうものであってほしいですしね。
予告編は宣伝対象と宣伝媒体が同じ
ただ、CMというのは基本的に商品、モノが中心にあります。その機能や、それを使うことによるメリットといったものを、
目でわからせ、音声で伝えて、論理的に理解させなければならない。そこに、さらに“感じる”ことを何かプラスしていくんです。
その商品をもつことによるステイタスやおしゃれ感などを加えるわけです。
宣伝すべき商品がお酒などの嗜好品や、形のないサービスである場合は、特に工夫が必要です。
その部分で“人”のドラマに近いものを感じさせられたらと思うんです。
予告編の宣伝対象は映画ですから、ある程度の内容、荒筋を伝える必要があります。
CMでは“商品の周りにいる人”を描くしかないんですが、予告編のいいところはストレートに人を描けることです。
そこに映っている人のどこを拾うかに、作家性が現れてきます。圧倒的な見せ方、感情を思い切りかき立てるようなつくり方をする人もいますが、私はもうちょっと地味です。
まず“人”をとらえて、何かを伝えようとする方なので、どうしてもアート系の作品をやることが多くなります。
はじめてつくったときに、すでに人から「単館系ですね」って言われたくらい(笑)。
アシスタントのころ、3人で同じ作品について好きなようにつくってみたんです。すると、全員まったく違うものをつくってきたんですね。
そのときわかったんです。これだけ個性の違いがあるなら、自分だけの価値を見つけていいんだって。
作品のどこを拾ってつなぐかは、雑誌の映画紹介の記事を参考にすることもあります。おもしろくなかった映画でも、記事を読んで違う着眼点に気づくと、アイデアがわいてくるんです。だれかの脳みその一角を借りるようなものですね。
最初にCMと予告編を分けたくないって言いましたけど、そうは言ってもCMの世界にいる人たちと、予告編の人たちとではどこか住む世界が違うんです。予告編の演出は職人的だと思うし、CMの演出は大工の頭領みたいな役回り。自然とその素質のある人が受け入れられている気がします。
でも、それ以前にもっと根本的なところで何かが違っている。それはたぶん「映画との距離」。
予告編の場合、宣伝すべき対象と宣伝する媒体が同じなんです。映画は商品であると同時に芸術であり娯楽でもある。懐の深いものです。
予告編の人は、そんな映画の世界の住人でありたいと思っているんじゃないですか。CMの人はもう少し違うところに立っている気がします。
これって実は一番のポイントかもしれません。自分も映画が大好きだから、今は調子よく予告編の人になって発言しちゃってます(笑)。
松田朋子(まつだ・ともこ)宮城県出身。テレコム・ジャパンからキャリアをスタート。クロスメディア・ジャパン出向後、いったん故郷仙台に戻り、新潟に本拠を置く電波倶楽部の仙台支社で主に地方CMの制作に従事。同社東京支社に転属となり、再度上京。96年に独立し、baca
the bacca(旧池ノ辺事務所)で助手をつとめながら予告編制作を学ぶ。予告編デビューは「真夏の夜のジャズ」(97/リバイバル)。市川凖監督のファンで「たどんとちくわ」(98)の予告編も手がけた。
予告編の代表作は「愛のコリーダ2000」「カノン」「オール・アバウト・マイ・マザー」「イグジステンズ」
「ザ・セル」「オー!ブラザー」「ギター弾きの恋」「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」
「8人の女たち」「ボウリング・フォー・コロンバイン」「ドッグヴィル」「エレファント」他多数
近作は「スラムドッグ・ミリオネア」
m |