MYSTERIES THE PRIVATE COMFORTABLE
MYSTERIES THE PRIVATE COMFORTABLE フクさんの独断偏見に満ち満ちた感想・書評群。

 −著者名別索引 及び読書歴(平成編)−
 −著者名別索引 及び読書歴(昭和編)−
−著者順全部索引− 


08/01/10
荻原 浩「サニーサイドエッグ」(東京創元社'07)

ハードボイルド・パロディ、ないしはユーモア・ハードボイルドの傑作であった『ハードボイルド・エッグ』の続編。探偵学校卒業後すぐに開業、数々の動物絡みの事件を解決してきた(?)最上俊平再び。『ミステリーズ!』のVol1から20号(二〇〇三年六月〜二〇〇六年十二月)の長きにわたって連載されてきた作品の単行本化。

 相変わらず、動物探しの実績によって私立探偵事務所を維持している最上俊平。エステの女王ビビアン小原のもとを逃げ出した犬を探し当てたものの、彼女が犬を虐待していたことに気付き、わざと逃がしてしまったため、またもや報酬にありつけない。馴染みのバー「J」を訪れたところ、マスターから人を雇わないかと問いかけられる。ブロンドに青い目の娘、更にはモデル経験ありと聞いた最上は瞬間で採用を決意する。そんな最上は、今度は和風美人の依頼人のもとから逃げ出したロシアンブルーの捜索依頼を受ける。長尾千春という彼女に対する妄想を逞しくする最上。そんな状況下、失踪現場の捜索から戻ってきたところ、事務所の前には確かに金色の髪をした女性がいた。Jの言葉は正しかった。ただ、彼女は染めた頭に鳥の巣頭、ブロンドのコンタクトをして派手な格好をした十六歳の少女だった……。態度だけはやたら大きい。家に帰れないという彼女を最上は一旦追い出すが、翌朝、結局しぶしぶながら彼女に動物探しの手伝いをさせることになる……。

派手にそして地味にじんわりと滲み出るユーモアを楽しむハードボイルド
 前回の老婆に続いて今回はティーンエイジャー。最上探偵事務所にやってくる探偵助手志望者は何かにつけて特徴がある。一方、その最上が今回抱えるメインの事件は飼い猫のなかでも最高級種・ロシアンブルーの捜索、しかも別々に二件。依頼人二人は方や小料理屋の美人若女将、方や一応一般企業を装ってはいるが、ばりばりのヤクザ。別々の依頼で猫の愛称もそれぞれ異なっている。一方で物語のなかでは動物虐待事件が巷間を賑わせている状況、ペット探偵のただでさえ不審な行動(街中で動物を探そうとするとどうしても奇妙な行動を取る必要があって……)はなんともやりにくい――。
 軽ハードボイルドとはいえミステリー。なぜ同じ時期にロシアンブルー二匹が捜索の対象に上がったのか。なぜヤクザがこうも血眼になって猫を探し求めるのか。こういった疑問点をそのまま繋げると答えになってしまうため、あまりサプライズという意味のカタルシスはない。ただ、荻原浩の本作品にはそのサプライズへの期待以上の、ストーリー全体及び突発的ユーモアが溢れている。 特に精神だけはハメット、チャンドラーという主人公・最上俊平のタフさ(ド根性)は読みどころ。中途半端なストイックさ加減がかえって笑うところになってしまっており、そういった描写が大量にあって困る(楽しい)。
 前作での強烈なセンチメンタルは今回後半に炸裂することはなかったけれど、本筋の事件の外側にある動物虐待事件の方にまで話が伸びており、そこで最後に盛り上がりをみせる点も良い。さらに今回のラストに関しては、もしシリーズが続くのであればいろいろ期待できそうな予感も。

 一冊目『ハードボイルド・エッグ』にはナカグロ「・」があるけれど、この『サニーサイドエッグ』には、点がない。なんでだろ? そういうもんなのか。作家・荻原浩としての引き出しはいろいろあるが、この軽ハードボイルドの系列は作者のセンスと味わいを深く感じさせてくれる意味でGOOD。三度、最上俊平との再会を期待。


08/01/09
服部まゆみ「ラ・ロンド 恋愛小説」(文藝春秋'07)

2007年8月に58歳でに急逝された横溝正史賞作家・服部まゆみさんが最後に上梓した連作集。『オール讀物』二〇〇四年十月号、二〇〇五年九月号に発表された作品に、書き下ろしが加えられている。独特の美学をお持ちの服部さんらしい内容となっており恋愛小説ではあるが、展開がミステリアス。さらに装画と挿画が宇野亞喜良画伯であり、雰囲気を盛り上げている。

十一歳年上の新劇女優・妙子と恋人関係にある大学生の田中孝。かつては演劇部に所属していた孝は、高校の同級生だった友人に誘われた打ち上げで彼女に出会って意気投合する。しかし妙子が娼婦役で舞台に立ち裸になったことで二人のあいだに微妙な亀裂が入り始める。そんな折、孝は偶然入った美容院で小太りで野暮ったい中学時代の同級生と再会する。中学に入り立ての頃、孝は彼女のうなじから強烈なセックスアピールを得ていた記憶があった……。 『父のお気に入り』
大学で哲学を教えている篠原克衛のもとに北海道から姪の島田藍がやって来た。同居している家族との関係に疲れていた克衛はダンスをしているという藍のことを好ましく思う。しかし克衛が嫌っている、ろくでなしで画家の弟・克巳の個展に藍が立ち寄ったことを知り、彼の心は乱れる……。 『猫の宇宙』
孝と気まずく別れたまま二ヶ月全国を公演して東京に戻った妙子。臆病になりながら孝にメールし、行きつけのバー「滝」で会うことになる。店の前で二十歳くらいの女性と男性が口喧嘩をしており、女性が頽れたところ孝が現れる。女性は孝の向かいに住む島田藍と名乗り、妙子が新劇女優であることに気付く。克巳と藍は駆け落ち中だといい、この晩がきっかけとなって藍は「滝」で働き始める。しかしある日、藍は孝を呼び出し、妙子と克巳の様子が怪しいと告げた……。 『夜の歩み』 以上三編。

背徳の果実の熟した甘さ。さらに毒と香水を仕込んだ不思議な恋愛=謎めく展開、意外な結末
 これを読んで泡坂妻夫や連城三紀彦を読んで感じたのと似た風景が頭に浮かんだ――というと変かもしれない。ただ艶っぽく切なく共感はなくとも訴えかけてくるような男女の心の揺れが見事に描かれている一方で、男女関係の機微のなかにミステリの種を仕込み、展開のなかで意外性を打ち出してくる。 ミステリとしてのサプライズを狙っているのではないけれど、その男女の関係のなかの秘められた気持ちや関係が「はっ」というかたちで演出されている。やはりミステリ畑出身の作者であり、小説の構成のなかに既にその骨法が備わってしまっている――といった印象だ。ただ、その恋愛の描き方自体については男性作家と女性作家の違いなのか、微妙に本書の方がどろりとしているかもしれない。ハーレクインとレディスコミックの違い――というと語弊があるが、小生にとっての手触りにそういった差があることは事実だ。
 物語全体から感じられるのは純粋であり、非常識であり、それでいて背徳めいた愛のかたち。彼ら、彼女らが芸術家であるという点は更にその絵柄にプラスされ、物語全体の一種狂騒性を高める。年の差恋愛、奇妙なフェチシズム、理解されないプラトニック。男女だけでなく、複雑に交わる親子の関係……等々。 これまでの服部まゆみさんの作品でも、異形の愛は描かれ続けてきているわけだけれども、本書においてもまた甘美にして毒々しい愛のかたちがぎっしり。そういった理解されにくい愛(これも語弊を恐れず書くと人間誰もが持つ何らかの変態性というか)を描くことで、逆に普遍的な物語性を持つという逆説が成り立っているようにも見え、ある意味怖い作品である。

 さまざまなかたちの芸術家が登場し、その独特の感覚で作品世界を構成してきた服部さんの作品のなかでは、比較的世界観など現代的で普通に近い感覚で読める方。ただ、それでも題名通りに「恋愛小説」を読みたいという人が手に取った場合戸惑われるのではないだろうか。やはり、これまでの作品で服部さんのイメージを知る人がまず手に取るべき作品のように思う。いやいや、ある意味この作品からの方が”綺麗な奇譚”の多い服部作品群には入りやすいかもしれないかも。難しい。


08/01/08
鮎川哲也「悪魔はここに」(光文社文庫'07)

光文社文庫で刊行が続いていた「鬼貫警部事件簿シリーズ」以降、第二弾として始まったのがこの「星影龍三シリーズ」。『朱の絶筆』、さらに短編集として『消えた奇術師』が刊行され、その三冊目となるのが本書にあたり、中編四作が収録されている。

バンドマンたちの住む練習所に取材に来た記者とカメラマン。彼らの前でメンバーが口論、その相手の女性が暫くして刺殺死体で発見された。道化師の姿をして侵入、女性を襲って逃亡した人物が犯人なのか? 『道化師の檻』
下宿難の学生たちを寄宿させる海沿いの薔薇荘は、未亡人から弟の田代氏に相続されていた。黒死館そっくりのこの薔薇荘で女学生が撲殺される事件が発生、さらに別の学生が屋内で殺害された。 『薔薇荘殺人事件』
山荘にいる牧氏の六十一歳の誕生パーティに招かれた推理作家の鮎川。資産家の牧には新たに長期間行方不明だった姪・絵馬子が現れ、遺産相続で一族は揉めている。その牧氏が殺された。しかも現場にある面が全て逆さに掛け替えられていた。 『悪魔はここに』
数年前に事件のあった薔薇荘を再び訪れた鮎川氏。若い男女が滞在しているなか、チェスを楽しんでいた鮎川氏の前にまたしても死体が。海月に刺されショック死した女性と、そして扼殺された女性と。星影は鮎川からの手紙だけで、真犯人を指摘する。 『砂とくらげと』 以上四編。

かっちり、きっちり。鮎川氏円熟期の本格作品の妙味を堪能。
 一部の作品は再読になるが、それでも改めて読んでもやっぱり面白い。犯人が分かっていても、さすがに細かなところは忘れてしまっている分、再読で改めて細かな作者の手際に改めて気付かされたりするのだ。いずれも殺害方法そのものにトリックらしいトリックは用いられていない。ある程度クローズドの状況のなかで殺人事件が発生し、作品に登場する複数の容疑者・関係者のなかから実行犯を捜し出すというWho done it? の謎解きとなっている。また動機面も一応はあるものの、本作品集においては『薔薇荘』以外ではあまり謎解きとは関係なく、あくまで誰がどのような手順で、どういった理由でその事象を為しえたか? という点についての推理が主眼である。
 また、後半三作は作者の分身(?)でもある「鮎川」という推理作家が事件を一人称視点で描写するため、そこに錯誤ないし事実誤認のトリックも仕掛けられているところもポイント。作品内の鮎川氏は、若干おっちょこちょいで先入観を持つタイプの人物として造形されており、ハナから星影は鮎川の情報を丸呑みしていないところが面白い。そしてとにかく、犯人を限定してゆく、星影による論理的な詰めの過程そのものがやっぱり読みどころ。 実は作中「鮎川」氏の描写には、様々なミスリードが入っているため、若干冗長な(無駄ではないですよ)ところがあるのだが、星影パートになった瞬間に物語のテンポがぎゅっと引き締まる。解決編に至って一文字も読み逃せない気持ちに読者を引き込むところ、やはり鮎川本格の醍醐味である。

いや、鮎川作品は何度読んでも楽しいなあ。ここに至るともうそれだけ。


08/01/07
芦原すなお「カワセミの森で」(理論社ミステリーYA!'07)

芦原氏は'90年刊行された『青春デンデケデケデケ』で第105回直木賞を受賞している。その受賞後、第二作として'93年に発表されたのが長編『山桃寺まえみち』である。その『山桃寺』では女子大生ながら居酒屋のママとなった桑山ミラが本書でも主人公。三十代後半に差し掛かった彼女が、高校生時代に遭遇した連続殺人を回想する。

 ”わたし”こと桑山ミラは、英腺女子高等学校に通う二年生。実父は母親を残して失踪、母親は自律神経失調症を発症、しかし別の男性と結婚し、彼も無口ながら良い継父である。娘の将来を母親があまりに慮った結果、わたしはお嬢様学校である英腺に通うことになり、髪の毛をばっさり切って様々な理由から陸上で長距離を走っていた。そんな私に近づいてきたのが深山サギリ。彼女は英腺よりも更にお嬢様学校である聖ベロニカ高校の、やはり嘱望される陸上選手だったのだが、わたしに近づきたいが故にわざわざ転校してきたのだった。しかしサギリのあまりのお嬢様ぶりに学校の不良たちに眼を付けられ、人気のないところで襲われてしまう。わたしの目の前でサギリは人格を豹変させ、不良たちに逆襲し撃退してしまった。様子のおかしいサギリについて彼女の豪邸を訪れたわたしは、彼女の不幸な出生を知り、更に交際を深めるうちに彼女の家が超のつく大金持ちで、さらに約百年前の不思議な運命に翻弄されていることを、彼女の母の弐子や、祖母の宵らから聞かされる。そして夏休み、彼女に誘われ深山家の別荘に赴いてから、その運命の歯車が不気味なかたちで回り始める。

賑やかに華やぐ青春小説が突如落下し、思いも寄らない見立て連続殺人へ。伏線読みとれずただ驚愕
 この作品にめちゃくちゃ驚いたのは、小生の読書遍歴とも関係があるのだけれども……。いやあ、登場人物の紹介というか、主人公のちょっと人と変わったところを説明するに過ぎないと考えていたところが思いっきり連続見立て殺人の伏線になっていたところ。まあ、小生以外の読書人であれば簡単に気付くのかもしれない。もしかすると個々にきっちりと犯行の手順であるとか順番であるとかまで注意した場合、理屈に合わないところがもしかするとあるかもしれない。作者自身、そういったところまで手が回っていない印象がある。ミステリとして優れているとは思うがHow done it? ではなくあくまで Why done it? としてである。犯人は全く見えないがそれでいて犯人捜しミステリではなく、あくまで最後の最後に恐るべき動機が現れるという異形のミステリなのである。
 ただ、事件が発生するのはあくまで中盤も後半に差し掛かってから。それまではむしろちょっと変わった性格を持つ女の子の青春ストーリーとしかいいようのない展開で、それがまた巧いのだ。芦原氏自身が女子高生の口調を再現するのが無理だと判断したからかもしれないながら、親父高校生を自称し、独特の知識とおっさんくさい口調が特徴的な桑山ミラの造形がお見事。 また、変人揃いの深山家の人々も、当主の臀一郎や使用人に至るまで個性的で面白い。その青春譚が一気に強烈な惨劇(但し、サスペンス感覚は薄い)に至ってしまう構成が実に不思議。その歪な構成ゆえに印象に残るという本当に奇妙な作品だと思う。

 今のところ、ジャンルは様々であっても比較的素直な(?)作品が揃うミステリーYA! においてもちょっと異色かもしれない。(まだ未読作品に変わった作品はまだまだあるのかもしれないが)。その意味で、レーベル的には「ミステリーランド」の方に入っていてもおかしくない印象。芦原氏らしい独特のリズムと言語感覚も全体に横溢しているし……うーん、やっぱり不思議な作品だ。


08/01/06
土屋隆夫「人形が死んだ夜」(光文社'07)

 まさか、というと著者に非常に失礼なことは承知ながら、まだ新作の土屋長編が読めるとは思っていなかった。昭和期を代表する本格推理作家。八十八歳、米寿の記念に執筆を思い立ち、九十歳になって脱稿なんて普通の人間に出来ることではない。しかも、ちゃんとミステリとしての構成が取れている。それだけで凄いとしか。

 母親の松代と甥の俊を連れて鄙びた温泉地にやって来た咲川紗江。紗江は中学校の教師。紗江の姉、美登は姉妹のなかでも抜けた秀才で、東京大学を卒業後、外務省に入省したがある時、妊娠して実家に戻ってくる。美登の生んだ子供が俊だが、美登は父親の名前を明かさないまま、病で死んでしまう。以来、紗江が親代わりに俊を育てていた。俊は言葉に吃音癖があるものの、美術的な才能が豊かで小学生にして将来を嘱望されていた。しかし、その日、一人でスケッチに出た俊が人気のない田舎道で車に撥ねられ、死亡してしまう。その俊の最後を看取ったという人物が参議院議員の秘書をしているという南原という男だった。地元署の土田警部らが事件にあたるが、直後の大雨もあって交通事故として処理がなされた。紗江は後から聞いた南原の証言におかしな点を見つけ、彼が何かを庇って偽証しているのではないかと疑い、単独で彼に対する揺さぶりをかけてゆくのだが……。

土屋隆夫らしい設定のなかで繰り広げられる独特の展開。新本格を経由しない本格推理の一方向か
 作品を発表されたお歳ばかりを話題にするのもなんだが、あとがきで作者が「土屋隆夫という一人の作家が五十年という時間の中で、どのように変貌したか。両作を読みくらべていただくのもまた一興であろう。」とコメントしている。両作といううち一つはもちろん本書、そしてもう一作は、限定版でカップリング販売もされている土屋隆夫のデビュー作である『天狗の面』を指す。さすがに本書に合わせて『天狗の面』の再読まではしていないが、『物狂い』にも登場する『天狗の面』での探偵役・土田巡査の息子、土田警部が本書にも登場している。また最初の事件の場所が人里離れた田舎である点や、中心人物を巡って複雑な家庭環境を用意しているところなど、設定の随所に昭和期の土屋作品に通ずる味わいがある。 このあたり、従来からの土屋ファンであっても安心できるところだろう。
 また、正直『物狂い』では厳しいな、と感じられたトリックなどが、構成が工夫されていることから本作ではあまり違和感がない――というよりも、トリックよりも人間関係や場面展開をはじめとした構成によって魅せようとする点で現代に通用する内容になっている。 第一の事件では、甥っ子の特徴から証言者の嘘を暴き、さらに証言者に対する揺さぶりをかける紗江の姿が描かれる。このあたりのサスペンスもなかなか――と思っていたら、一転して証言者は何者かに毒殺されてしまうのだ。開かれた、衆人環視のなかの毒殺事件。ここからは警察のチームプレーの話となってゆくのだが(以下ネタバレ)犯人は捕まらず、完全犯罪となってしまう。 犯人については読者ならば分かる仕掛けだが、本書が真の意味で凄いのはここからかもしれない。(以下ネタバレ)最終的に十五六年が経過した後、犯人は犯罪を土田警部に告白する。土田警部は死んではいないが、もうその告白を理解する能力はない。また犯人にしても、土田警部が真相を見破っていて見逃してくれていたと信じているが、それを確かめる術もない。この土田警部の置かれた状況であるとか、死に瀕して必死に犯罪を告白しようとする犯人であるとか、
犯罪そのもの以上に時の経過の残酷さを感じさせるかたちで物語は幕を閉じる。この時の流れをここまで効果的に、そして切実に使用するミステリはかなり珍しいように思うし、九十歳を超えある意味ただ一人残された土屋氏ならではの構成だと感じるのだ。
 最後に犯人が独白するといった形式自体は珍しくはないが、ここに時の流れと人の運命という無情を凝縮して詰め込む。 更には土田親子の生涯もある意味描ききっているわけで、これは帯にもある通り「土屋文学」としての集大成に相応しい内容だと思う。昭和期から連綿と続く本格推理の一形式を取りながらも、その間に勃興した新本格ミステリとは異なりながらかつ新しい味わいを最後に打ち出したといえるだろう。

 読んだことがないという方にまでは無理に薦めたりは出来ないながら、初期の土屋作品を知る読者であれば、やはりこの作品は手にして貰いたい。この作品は、間違いなく本格推理の里程標の一つであるから。


08/01/05
新津きよみ「ユアボイス 君の声に恋をして」(理論社ミステリーYA!'07)

新津きよみさんは1988年デビュー。日常系のサスペンスやホラー作品を描くことに定評があり、異形コレクション等にも作品を寄せている。本書はYA!が意識されたサスペンスミステリー。書き下ろし。

 二年前、大学四年生だった岡里菜は当時の恋人だった田所伸を喪った。自宅近くの公園で何者かに刺されて死亡したのだ。今に至るまで犯人は見つかっておらず、里菜は未だに彼が携帯電話に残していった声を聞き、深い喪失感にさい悩まされているが、市内の中学校に美術教師として赴任することが決まっていた。彼女は近くのコンビニで、その伸そっくりの声を耳にする。また、田所の家では婚約してもいなかった里菜が未だに伸に未練があるのを見かね、絶縁を宣言、伸の事件については懸賞金をかけるといいだした。一方、中学二年生の牧野珠緒は、一日違いの誕生日で学年が一つ上になる従兄弟・五十嵐薫のことが気に掛かっている。どうやら薫の中学に美人美術教師が赴任してきて、その教師が何かと薫のことにちょっかいを掛けているらしい。その薫こそ、岡里菜がずっと気に掛けてきた伸と同じ声を持つ中学生。そして里菜は、大人びた薫と、彼が持つ不思議な能力について少しずつ理解をしてゆくのだが……。

ミステリとしては多少強引でも、多数の登場人物が身近に感じられる表現の多様さが見事。
 中心となる人物が三人。赴任したばかりの美人美術教師。その教え子で不思議な能力を持つ中学三年生男子、その従姉妹で別の中学校に通う二年生女子。主要三人についての描写が瑞々しく、新鮮、活き活きとしてにみえるのが本書の最大の特徴。 凄いセンスと唸らされたのは、彼らを背後から支えている様々な人間関係についてまで、かなり徹底的に書き込まれている点だ。主人公・岡里菜でいうと彼女自身の実家、兄夫婦、両親との関係に、元恋人の田所伸の親であるとか兄であるとかとの人間関係がある。さらに従兄弟同士の五十嵐薫、牧野珠緒の母親同士の葛藤、父親の立場の違いから、珠緒自身の学校の友人関係に至るまで、素通りせずに個々に様々な関係性(良好であったり葛藤であったり)が些か生々しささえ感じられる内容で描かれているのだ。ビルドゥイングス・ロマンというには少々分量が物足りないのだが、多感な思春期にこういった”大人の事情”についても少しずつ踏み込んで知っていく場面が、登場人物の成長を感じさせてくれるエピソードとして印象深い。
 とはいえ、そういった人間関係描写に深みがある一方で、物語全体の流れとしては特に後半かなり急ぎすぎている印象だ。後半部は薫の持つ不思議な能力を利用して、元恋人の犯人を追い詰めようという展開になっていく。ちょっとこのあたり、犯人捜しに熱意を燃やすあまり、教師と生徒の関係を乗り越え、生徒を利用するだけにみえる岡里菜の態度であるとか考え方であるとかに少々違和感あり。(この点に関しては岡里菜に対して全く感情移入しない読み方をしたせいかもしれないが)。ただ、教師と生徒二人だけの物語であると微妙にインモラルな話になりそうなところで、従姉妹の牧野珠緒のエピソードを咬ませており、物語のバランスはぎりぎり保たれている感。
 ミステリとしては、二年前の事件がなぜ公にならなかったかといった部分に工夫がある。ただし、解決自体は特殊能力によってしか得られないかたちであり、事件は物語全体のスパイスとしての役割と割り切るべきだろう。

 なかなか新津さんの長編を読む機会がなく、これが初めての体験となった。人間、特に女性の描写にはさすがなものがあり、物語自体を読ませてくれる実力はひしひしと感じられた。本来の新津さんの持ち味だと思われるホラー・サスペンス系統についてもいずれ手を出してみたいと思う。


08/01/04
篠田真由美「王国は星空の下 北斗学園七不思議」(理論社ミステリーYA!'07)

奥付の表記に題名表記は従ったが、表紙や背表紙では「北斗学園七不思議@」となっており、チラシではシリーズ第一弾となっている。(内容としても全ての謎が解かれていない)。書き下ろし。(ちなみに篠田真由美さんの現代作品の場合、あのシリーズとの連関があるのでは……と若干期待していたのだが、それは本作ではない模様だ。小生が気付いていないだけかもしれないが)。

 幼稚園から大学院まで揃った私立北斗学園。共学で各学年クラスが三つ程度の中等部は三分の二が初等部からの持ち上がりで、外部からの受験者は少数派。その少数派に所属するオレことアキ、本名・清家彬は、慎重派のハルこと桂晴樹、無鉄砲なオレとハルとを調停してくれるタモツこと青木保と三人はなぜか気があって三人でつるんで行動していた。彼らは規則の厳しい寮に住んでいるのだが、ある夜中、寮を抜け出して中高等部を囲む金網を超え、大学内部でも秘密めいたイメージのある”旧ブロック”へと乗り込む。北斗学園七不思議の謎を解くのがその目的だ。実は、三人は新聞部に所属しており、オレが五歳の時の写真がきっかけとなって北斗学園の七不思議に興味を持つようになる。七不思議のうち二つは学校に関する謎「なぜ北斗学園の校章は星が七つではなく八つなのか」、更に残り五つは「新旧ブロック境目の大理石像が勝手に動く」など、旧ブロックにまつわる謎だった。だが、学校の関連文献にもほとんど旧ブロックの記述はなく、さらにどうも学園の関係者はそのことを調べられるのを快く思っていないらしい。窮余の一策として新聞部所属の高等部二年のマドンナ・不破宙美先輩に企画として持ち込むが、それも却下。そしてオレたちは夜中に旧ブロックへの忍び込みを実行した。そこで奇妙な出会いがあって……。

謎が溢れ、秘密めいた学園そのものが主人公のファンタジックミステリ
 学園を舞台に男子中学生三人が謎解きをする――という物語自体はそういった雰囲気をもって進む。解かれるべきは北斗学園七不思議。この学校の七不思議というのは、ジュヴナイルミステリやライトノベル系のミステリなど、学校を舞台にミステリ作品を描く場合にしばしば取り入れられており、本書も題名からしてそういった作品群の流れのなかにあるかのように思わせる――のだが、読み進めるとちょっと手触りが異なる印象だ。
 七不思議そのものが、実際に主人公らが体験できない(彼らのいる中高等部の敷地内で発生する謎ではないため)という点からして普通のミステリとは異なっている。謎解きが即ち、退学を覚悟しての冒険になってしまう。さらには北斗学園という学校法人全体内部での秘められた抗争が絡み、実際、夜の冒険に命の危険さえもがついてくる。その先に彼らが見るのは、時の流れを超えた、学園が抱える秘密の場所。(この作品では旧図書館)。こういった設定に展開が加わることで某ベストセラー小説シリーズの魔法学校とも何かイメージが重なってくる。一方で仄かな憧れといったものがあるものの、恋愛小説っぽさは皆無で、男三人の若い(幼い?)友情と無鉄砲さが物語自体を引っ張ってゆく。
 篠田作品ということで本格ミステリを期待していた部分が正直あった。だが、本作における謎とその真相については論理的ではあるものの、例えばヒントになる本が与えられてそこから調べるところなど、本格というよりもむしろ音引きの”ミステリー”といった趣を持っている。 更に先に述べた通りの”学園自体”の謎が待ち構えているわけで、中学生三人組の役割は名探偵ではなく、そもそも狂言回しとして存在しているようにみえる。今後、残された謎についてどのようなバランスが取られてゆくのか、それにより物語全体から得られるイメージががらりと変わるように思われる。

 もともと篠田作品においては若干のやおいっぽい設定が持ち込まれることが多いのだが、本書にもそれが反映されているように思う。圧倒的に男性登場人物の方が硬軟取り混ざって魅力が高い。ま、この点については本筋とは無関係なのだけれど。取り敢えず、学園という閉鎖的空間、そして響きに魅力を覚える人にはこのシリーズ堪らないものになる予感。


08/01/03
友成純一「恐怖の暗黒魔王」(双葉社FUTABA NOVELS'87)

 知る人ぞ知る、友成純一氏の傑作にして伝説〈宇宙船ヴァニスシリーズ〉の二冊目。小生は不運にも完結編にあたる『戦闘娼妓伝』から入り、続いて第一作の『宇宙船ヴァニスの歌』を読んだが、いずれも凄絶にして能天気さ弾けるバイオレンス(?)SFの傑作であった。本書もまた超絶にして脱力度が凄まじい作品である。あとがきも相変わらず面白い。

 七十年前、僅かに残った民主主義者の軍隊は全滅の危機に瀕していた。億単位の世界主義者の軍に対する千人弱の軍隊は、敵の戦闘サイボーグ・赤衛兵によってぐちゃぐちゃにされていった。民主主義を率いるプレッジ・スミスとその四天王は最後に逃れて放浪の旅へと出発した。そして現在。竜神童子は冷凍睡眠から目覚め、プレッジ・スミスの命を受け、太陽系から五千光年離れた辺境の星域へと送り込まれる。部下は二人。火星の戦いで精神に変調をきたしているナイフ使い・コワルスキーと元赤衛兵ながら、戦闘終了後の赤衛兵大虐殺から逃れ、民主主義へと転じた巨大サイボーグ・マッド。彼らは、惑星クナールで情報収集をしているという連邦の宇宙艦、すなわちヴァニスの乗っ取りを指示されたのだ。手始めにクナールで娼妓船・愛宕山から出張営業をしているメアリアンを人質にヴァニスへと乗り込むが、リリーは訳分かっておらず、撫子は勝手に竜神童子に惚れ込み、コワルスキーと赤衛兵は暴れ出し……。むちゃくちゃや。

笑うところ多すぎ。安っぽいヒューマニズムが痛快に否定され、凄絶な能天気が物語を支配する
 表紙が格好いいです。黒いフードを肩まで纏い、光線銃を右手に軽く掲げた竜神童子。その後ろで暗い目をして背中に裸女を抱え上げてレーザーナイフを構えるコワルスキー。更に二人の後ろから巨大な赤い単眼を光らせ、機械の身体で静かに威嚇する赤衛兵・マッド。この表紙だけ見たら、間違いなくこの三人の冒険譚だとしか思えない。はず。
 ……が、その三人、物語の冒頭から基本やられキャラ。 非戦闘員の殺害を拒み、人類に対する愛を口にし続ける竜神童子はこの個人主義・快楽主義が徹底した世界では完全な異端者。ましてやリリー様にその言葉自体が通用してません。更には変態・コワルスキーに人間の身体が恋しい赤衛兵もやっぱりむちゃくちゃ。このむちゃくちゃが乗り込んできながらも、彼らの直接的な脅威が去った途端に快楽に耽る一般娼妓たちも素敵です。彼らが一生懸命ヒューマニズムを口にすればする程空回りしてしまうところは、もう笑うしかない。撫子にあっさりと骨抜きにされる竜神童子にしてもなんともはや。
 更に特典としてヴァニスシリーズの影の重要人物・ドクターの凄絶な過去が本作で明らかに! まさかこんな過去があるとは。ドクターがこれだけ苦労しているところを私怨でむちゃくちゃにしてしまう撫子、更にはリリー様大暴れ。 最後の追いかけっこ(真面目に書くと追跡劇?)は腹捩れる。ああ、こんなに楽しい小説が(但し十八歳未満禁止)あるなんて。 エロチックな場面、グロテスクな場面も散々にある。バイオレンスといえば、これほどバイオレンスな描写がある作品も少なかろう。だけど突き抜けてしまうとこれらはみんなギャグになってしまうわけで。
 読み終わってみると、徹底してヒューマニズムを馬鹿にしてしまっている点が妙に心に残るけれど、やっぱり宇宙を股に掛ける能天気・リリー様大暴れのくだりはサイコーなのだ。

 しっかし、後の作品でもしっかり変態脇役重要キャラクタとして登場する竜神童子やメアリアン、ここでいっぺん死んでるやん。 たぶん『戦闘娼妓伝』のあとがきか何かで、重要な人物はいちど死んでもC級アニメとかだと次の回から生き返るんだから、自作でもそうした……といった趣旨のことが書いてあった記憶があるので、そのことを指すのかと合点。合点も、これ素で順番で読んだら、もっと「おいおい」という気分になれたかもしれないかと思うと何か少し悔しいかも。

はあ、『血飛沫電脳世界』読みてえ。どなたか貸してくださいまし。


08/01/02
霧舎 巧「十月は二人三脚の消去法推理」(講談社ノベルス'07)

 しばらく刊行が途絶えていた感もあった「私立霧舎学園ミステリ白書」シリーズ、四月から始まり、本作で七冊目。ちなみに前作にあたる『九月は謎X謎修学旅行で暗号解読』は2005年の作品なので二年ぶりの刊行になる。(ので、頭が霧舎学園に切り替わるまで非常に時間が……)。書き下ろし。

霧舎学園の秋の恒例行事は体育祭。二年の羽月琴葉と小日向棚彦は、ソリの合わない教師・脇野により、半ば強制的に体育祭の実行委員にさせられる。あと体育祭を一週間に迎えたある昼下がり、学校内の時計塔で不審火が出て避難騒ぎが発生した。いち早く現場に駆け付けたのは棚彦と琴葉。一方の脇野も後から得点稼ぎのために現場で消火活動を行ったような振りをする。事件は煙草の不始末で処理されたが、なんと事件を通報したのは校舎内に入り込んでいた理事長の姪御・倉崎昨夜子・八歳であった。学校の外でも放火事件が散発、体育祭を中止にさせたい何者かの陰謀かと棚彦らは睨む。一方、三年の自称名探偵・頭木保は、学校に届いた『十月十日の殺人』のメールの秘密を追っていた。そして十月十日、体育祭のさなかに奇妙な事件が発生する……。

作者の狙いは分かる。分かるのだけれども……物語と謎が散漫になりすぎ効果が薄いか
 単なる学園ラブコメ+本格ミステリだけでなく(その要素は十二分にあるのだが)、毎回、本格ミステリとしての趣向を違え、毎回異なる傾向の事件を取り扱うのがこのシリーズの特徴。前回は暗号だったが、今回は題名通りに消去法推理、である。つまりは容疑者と成り得る一群の人々から、事件を実行するために必要な要件を取り上げて犯人たり得ない人を消去してゆき、残された人物が「犯人だ!」とやられる手法である。本格ミステリの場合は比較的オーソドックスといえばかなりオーソドックスな手法になる……はずなのだが、この作品では趣向を凝らしている。
 事件の伏線を多々配し、事件当日は体育祭。父母の来場お断りとせざるを得ない環境のなか、特殊な環境下で監禁・放火事件が発生する――という展開。その事件の流れに沿って「犯人は○○であることを知らなかった」「○○であることを知る立場にあった」等々を積み重ねてゆき、犯人の特定に結びつけてゆく。この作品の場合、残念なのは二個所あって、一つは物語自体のテンポが独特で細かで思わせぶりのエピソードが多すぎ、どれが本筋の”解かれるべき事件”なのか見えづらいという点。 もう一つは、ネタバレになるのだが、いわゆる操りにする意味と、操りの方法、操りの対象等々が弱い点。ほか細かな部分はこの二つに繋がるように思う。前者では放火事件、コンビニ店員が誰かを避けている事件、謎のメール……といった一連の謎が本筋と絡んだり絡まなかったりがバラバラなので、読んでいるこちらがかなり混乱してしまう。後者は……フィクションゆえ、そういう特殊なキャラクタがあっても良いけれど、その特殊さを所与のこととして推理を組み立てるのは流石に無理なのではないか……とかそういう話(ぼかして書いてます)。
 ただ、先般発表されている『新本格もどき』などを読む限り、作者が本格を組み立てる力には相当なものがあるはずなので、このシリーズから離れてこのアイデアを活用していたら……とむしろ勿体ない感が強い。

 ただ、シリーズとしての縛りはどうしてもあるなかで色々なことをやろうとする気概は買い。本格ミステリファンに素直に薦められるか……というと本作に関しては微妙も、霧舎巧氏の指向はあくまで本格ミステリのパートであり、単純に学園ラブコメをシリーズで書いているのではない! という点は少なくとも知識として押さえておいていただきたいところ。


08/01/01
西尾維新「刀語 第十一話 毒刀・鍍」(講談社BOX'07)

講談社BOX刊行記念、十二ヶ月連続刊行、既に西尾・清涼院の両者とも完結済。が、しかし。年明けて十一冊目にようやく手を付ける私。遅すぎ。

 昔――刀語の旅をとがめと七花が行う数百年の昔。戦国時代に山の中に引きこもってひたすらに稽古を続ける男があった。そこへ訪れた傍若無人で口の悪い男。訪れた男は、もう一人の男の腕をけなすがぎりぎり合格だといい、自分は剣士ではなく刀鍛冶だと名乗った。これが後に虚刀流と呼ばれる流派の開祖となる鑢一根と、その段階で既に伝説と化していた刀鍛冶・四季崎記紀との出会いだった――。そして現在。毒刀・鍍の毒により乱心した真庭鳳凰は、対戦していた左右田右衛門左衛門と味方の真庭人鳥に斬りつけ逃走してしまった。逃走先は伊賀にある新・真庭の里であるという。こういった情報を傷付いた真庭人鳥から得た奇策士とがめと鑢七花は、尾張には寄らずそのまま伊賀へと向かう。その道中、二人はこの旅が終わった後のことについて思いを馳せる。一方、とがめの取り計らいで宿屋で傷を癒していた真庭人鳥の前に、再び左右田右衛門左衛門が現れた――。

この段階で既にクライマックスへの道筋に一直線。この刀語の世界の謎が解けてゆく――。
 前作にて既に整理が済まされているのだが、もう残された登場人物が非常に少なくなってきている。 名前のないキャラクタが非常に少ないせいもあろうが(名前のない登場人物は、特にこの作品の場合は駒以下、生物としての人間としか扱われていないようにも思う。コミュニティが全滅して生き残り一人……みたいなエピソードが多すぎ)、主人公の奇策士とがめ、鑢七花と敵役としての否定姫とその配下である左右田右衛門左衛門、さらに”まにわに”の生き残り、真庭鳳凰と真庭人鳥。この六人のみ。今回は戦いの場面も複数あるためか、何人かが命を落とし更に登場人物が研ぎ澄まされる来月に繋がってゆく。
 今回は、四季崎記紀の亡霊(みたいなもの)が登場するおかげで、十二本の変体刀の秘密が明かされる。なぜこれらの刀はとんでもない能力をそれぞれが持っているのか。明らかに舞台となっている時代とは異なるテクノロジーが混じり合っているのはなぜか。個人的には漠然と想像していたものとは逆の発想を西尾氏が提示してくれており「おぉ?」と気持ちよく驚いた。また、前月あたりから微妙に思わせぶりな作者の記述が目立っていた全体のなかでも重要な事件が最後に発生、次月への繋ぎはパーフェクト
 ここまでの流れは毎月、中ボスクラスのボスキャラと戦い、そのボスキャラの守る宝物を入手する――という、まんまRPGゲームの定番のような骨格を誇ってきた物語が、最後の最後にどういった展開をみせるのか。(ついでに物語の舞台も戦国ファンタジーという、RPGでしばしばみられる設定を用いている)。予想がつくといえばつく一方で、むしろ予想を裏切って欲しいのが読者のわがまま。

 今後の展開、非常に選択肢が限られてくるなか、どういった結末に持ち込まれるのか、最終巻が非常に楽しみ。ちなみにこのファンタジー空間にしても、その作品内で説得力があるエピソードが早い段階から配置されてきている点には特に注目したい。(今さらだけど)。