MYSTERIES THE PRIVATE COMFORTABLE
MYSTERIES THE PRIVATE COMFORTABLE フクさんの独断偏見に満ち満ちた感想・書評群。

 −著者名別索引 及び読書歴(平成編)−
 −著者名別索引 及び読書歴(昭和編)−
−著者順全部索引− 


09/01/20
小柳粒男「くうそうノンフィク日和」(講談社BOX'08)

 小柳氏は1987年生まれ。本書『くうそうノンフィク日和』にて第1回講談社BOX新人賞・流水対象優秀賞を受賞。講談社BOXレーベルが初めて世に送り出す”危険な新人”第一号。既に同レーベルから二冊目にあたる『りべんじゃー小戦争』も刊行されている。

 微妙に田舎の街にある喫茶店兼バー「琴欧州」の雇われマスター・撤井は二十代半ばの独身男。実家パラサイトで短期バイトで食いつなぐ生活で様々な問題を起こし、親からの強制就職を機に出奔、当時は「魁皇」だったこの喫茶店に住み込みで働くことになった。そんな撤井が気にするのは三人組の高校生。勤勉を絵に描いたような優等生・土眞渡(土と眞で一文字・はわたり)と、明るく活発な女子高生・篠木、そして篠木の騎士気取りだが相手にされない不良気取り・張戸。しかし撤井が珍しく早起きしたある早朝、高校の校舎で不思議な光景が繰り広げられているのを目撃する。篠井は魔女のような衣服を着て、張戸が騎士のような格好をしていたのだ。クラス全員も教室に来ている。後でその服装のまま撤井に篠木が説明する。異世界で人間VS動物人間の戦いが繰り広げられており、自分はその戦いに参戦することが運命づけられているのだという。張戸は、この世界に留まりながら、人間として暮らしている動物人間を倒す役割。篠木はどこかへ旅立ち、張戸も姿を消し、撤井の知り合いの高校教師は嘆き、撤井は、は渡と張戸へ、篠木への手紙を届ける役割が託される。

独身男の持ってゆきようのない悲哀が滲み出る、ファンタジーと現実との狭間にある物語
 実は、二度読んだ。最初の段階では、異世界に旅立つというゲーム等の設定の裏側(現実側)という設定を、そこそこ面白いと思い、リバース・ファンタジーというか、ファンタジーを肯定する世界の裏側小説という斬新さに目を奪われた。たぶん初読だけで感想を書いたら、その設定と、実に現代的で自己中心的な登場人物のそれぞれ、といったところに焦点を当てた文章になっていたと思う。
 ただ、二度目になると、本書は撤井という視点人物にして主人公らしからぬ主人公の青春物語(の一部)のように思えてきた。二十代半ばと自分ではまだまだ若いという自覚があり、常連の女性客に少なからぬ好意を寄せられる立場にある、決して普通の意味では不幸な状況にはない主人公。それでも田舎の喫茶店で日々そう変わらぬ日常に埋没しそうになり、用を済ませた後にティッシュで先端を拭い、ヘビースモーカーでありながら、吸い殻のポイ捨てには良心を深く咎めているという、小心と悲哀を併せ持っている。このあたり、青年の孤独の描き方が絶妙に上手い。 
 そして我が道を行く何をやっても天才少年・は渡、魔女になって異世界で殺戮を繰り返す美少女・篠木、同じく現実界では連続殺人鬼となってしまっている騎士・張戸。そういった三人の、自分よりさらに若い世代が(様々なかたちで)羽ばたいていくのを、見守るしかない自分。見守るだけであれば、格好悪くもないが、自分にも何かできるのではないか、自分も彼らの役に立てるのではないかと奔走するところがまた見ている分に微妙にツライのだ。
 初読の感想にもある通り、ファンタジー世界の裏側という設定自体はやはり秀逸だと思う。ただその設定から、実はもう一歩進んだところにある情念というか諦念を描いた小説である点がユニークなのだ。微妙な無力感、消極的な絶望感といったところが滲み出ており、それがまた先進的な表現・感覚を孕んだ青春小説として評価出来うる内容だと思う。

 ただ――、どういった方がこの作品を楽しめるのかというと、むしろ判らなくなってしまう。普通にアクション、普通に恋愛という感覚がなく、どちらかというと観念的で考えさせられる内容として深いのだ。直木賞より芥川賞、通俗より観念。実はレーベルにかかわらず『群像』とか向けだったのではないか。講談社BOX自体何でもありなので、この作品も含まれようが……。


09/01/19
若竹七海「プラスマイナスゼロ」(ジャイブ'08)

 若竹作品にしばしば登場する架空の都市・葉崎を舞台にした、高校一年生になる特徴的女子三人組による微妙なミステリ。六編ある短編のうち三編については『ピュアフル・アンソロジー』というアンソロジーに2006年9月から2007年11月にかけて発表されており、残り三作品は書き下ろし。

 山の上にあるロケーションから人気がなく進学校でもなく、落ちこぼれ収容校でもなく、だけど定員がいつも割れてしまうがため、二次募集でほぼ全入という葉崎山高校。その高校の生徒にして仲良しの一年生三人組、即ち、成績優秀品行方正お嬢様・天知百合子ことテンコ、成績最低品行下劣、極悪腕力娘・黒岩有理ことユーリ、そして成績・運動能力・容姿・身長体重全てが平均値という崎谷美咲、三人が巡り会う不思議な事件の数々。
 テンコの招いたちょっとした不幸により、他殺死体を発見してしまった三人。事件は解決するがテンコにその全裸死体の幽霊が取り憑いてしまう。 『そして、彼女は言った 〜葉崎山高校の初夏〜』
 葉崎の海を彩ろる海の家。話題先行、客ゼロの跡地で、三人組は特大クリームソーダを食する。その海の家のオーナーの話題になってゆくのだが……。 『青ひげのクリームソーダ 〜葉崎山高校の夏休み〜』
 葉崎山高校収穫祭。嫌なことがあって、射撃する方のパチンコで洒落にならない悪戯をする三年生・尾賀。停学になっていた彼が学園祭に現れて……。 『悪い予感はよくあたる 〜葉崎山高校の秋〜』
 クリスマスのアルバイトで病院を訪れた三人組。その病室には酔っぱらい運転の車に轢かれたお姉さんと、上品そうなお婆さんがいたのだが……。 『クリスマスの幽霊 〜葉崎山高校の冬〜』
 卒業生を送る会に出す出し物で、ユーリは自分の知る天才アーティストの技を、三人組で行っては、と提案する。しかし、ユーリ推薦の天才パフォーマーの技とは……。 『たぶん、天使は負けない 〜葉崎山高校の春〜』
 お嬢様、ヤンキー娘、平均値。そんな三人がなぜ仲良くなったのか。入学直後にあった、ある事件の理由とは……。 『なれそめは道の上 〜葉崎山高校、1年前の春〜』 以上六編。

ミステリとしては若干小粒も、葉崎舞台の青春小説としては最上。若竹世界、大好きです
 説明のつかない幽霊が冒頭作品から登場するわ、常識を越えた不幸(試練?)が、次々とテンコさんに降りかかるわで、どちらかというとシチュエーションコメディめいた味わいの方が強い短編集。やり過ぎでしょ? とツッコミたくなる、この不幸の連鎖というのが一つ本書を繋ぐキーワードになっているような。
 そして、これまでじっくりと著書を積み重ねている若竹さんの強みでもあるのだけれど、舞台を「葉崎」という場所にしたうえで、作品内にこれまでに登場した幾つもの地名他をちりばめることで、本書だけが独立した短編集(厳密にはそうだけれども、イメージとして)ではなくなってしまうのだ。 事実上、独立短編集であったとしても、長年のファンにとっちゃ知っている地名が出てきた日にゃ、一連の葉崎コージーの延長としてしか、本作も読めなくなってしまう。(別にそれはそれで差し支えなさそうだけど)。
 トータルとしては、普通科高校に通う、仲良し凸凹平坦な女子高生三人組が邂逅する事件を描いており、個々に微妙にジャンルがずれる楽しみがある。冒険ミステリとして工夫のある作品、意外なところからサプライズを仕掛ける作品から、ユーモア幽霊譚、彼女たちの出会いを本格ミステリ風に描き出す作品と、全体を総じてまとめるとユーモア・ミステリー(しかも、ユーモアの方に重点を置いた)であり、性格と容姿の特徴の異なる三人組を配することによって「先をまったく読ませない」ことによって吸引力がある。さらにそれぞれの作品で異なるシチュエーション、異なる時期、タイミングを扱っており、一部死体は登場するものの、全体的にはこれまでの若竹作品同様、ニュアンスとしての日常の謎に近いように感じられた。シリアスになりすぎず、かつ毒はあって、これまた日常のなかの本当の意味での日常を演出している。

 登場人物も作品ごとに絞られた内容展開となっている一方、三人組がそれぞれ(平凡を絵に描いたようと自称する主人公でさえ)魅力的。これまでの若竹ワールドがお好きな方であれば、本作にもまたすっと溶け込んでいただけることと思う。


09/01/18
米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」(新潮社'08)

 「最後の一行」による衝撃を重視したという、微妙に連作を構成する短編集。(この曖昧な言い方は本編にて)。『小説新潮』二〇〇七年六月号、二〇〇八年一月号、二月号に「Story Seller」(『小説新潮』二〇〇八年五月号別冊)に発表された作品、さらに書き下ろしの表題作……に近いけれども別の題名の作品が付け加えられた作品集。

 旧家・丹沢家の次期当主となる吹子のお付き女中として働くことになった村里夕日。吹子と共に働くことに無上の喜びを得る彼女だったが、勘当された長男によるものと思われる事件が連続して発生して……。 『身内に不幸がありまして』
 製薬会社として巨大な発展を遂げた六綱家。その当主の妾腹の娘・内名あまりは、家に置いては貰うものの使用人扱いで、別館に幽閉されたある人物の世話をすることになる。 『北の館の罪人』
 当主が妻のために建てた山荘。その山荘の美しさに魅せられ、管理をする屋島守子。完璧な準備を施しているにもかかわらず、その山荘には客が訪れない。しかし、遭難しかかった男を彼女が救うことから……。 『山荘秘聞』
 傾き書けた名家・小栗家。祖母が権勢を振るうな、男の子に恵まれず純名は女性ながら次期当主候補の期待を担う。純名についたお付きが玉野五十鈴。彼女は料理以外は万能の才能を持っていた。しかし純名の叔父が警察の厄介になった瞬間、家は純なに対し手の平を返す。そして五十鈴も……。 『玉野五十鈴の誉れ』
 祖父の財産を投機に使用する父を持つ大寺鞠絵。父親の成金趣味に辟易している彼女。そして父親は自らの見栄を満たすため、「厨娘(ちゅうじょう)」を雇い入れるのだが……。 『儚い羊たちの晩餐』 以上五編。

仮面を被り、自らを偽ることが習い性となっている人々によるファンタジックな群像劇。その仮面が外れる時の衝撃が……。
 都合五つの短編によって構成される作品集だが、幾つか共通するモチーフがある。一つは、大学生による読書会である「バベルの会」。また、バベルの会の必要条件とも合致するのかもしれないが、短編それぞれの舞台となる”家”が、上流階級であるという点だ。その「バベルの会」の秘密は、最終話で一応明かされる。サークル活動の内容としては本編で断片的に触れられるのみ。ただ、かの有名な「アミルスタン羊」が作品に登場する段階で、むしろその特異性が明らかになっていく展開は、破滅的でスリリングですらある。具体的な活動がほとんど描かれていないにもかかわらず、この「バベルの会」の会員が持っているであろう夢は、実は読書家誰もが持っている要素であるように思える。
 もう一方の”物語舞台が上流階級”という点。ただ単に成功して成金一家も、過去からの栄光を面々と受け継ぐ一家も、その他の名家もあるのだけれど、主要登場人物に関しては、ほとんど金に困ったこともなく、何不自由なく育てられている。また、彼らに仕える使用人は、主人の人格・性格がどうあれ、絶対の忠誠を尽くすことを要求される。本書の最後の「一撃」は、こういった作品内における人間同士の関係性と深く関わっている。 そもそも彼らは常に仮面を被ることを要求されていて、ある作品ではその仮面の内側からの描写であり、ある作品ではその仮面に起因する事件だったりするバリエーションがユニークなのだ。
 そして――その登場人物に”上流関係”を配したことによって、全体的にどこか(読者が小生同様の庶民階層である前提で)、ファンタジーめいた雰囲気を維持している点も面白い。その結果、普通の感覚ではあり得ない”運命”が、登場人物に降りかかっている。一種その仮面を被った上層階級による舞台劇といった様相も呈している。 これはまた、本格ミステリにおける真犯人が被る仮面にも似て、背徳の香りが漂っている点が物語に独特の品と、味わいを加えているといえるだろう。その仮面をかなぐり捨てて、本心を吐露するところにめちゃくちゃなサプライズがある。 そしてその仮面の外し方が多様に過ぎて、先が読めない点がまた面白いのだ。

 古典部シリーズのような、青春小説とは異なり、青春小説であっても残酷さがむしろ際立っている。黒・米澤穂信の味わいが強く、これまでの作品でいえば『インシテミル』あたりと同系列だといえるのではないだろうか。これまでの米澤作品のファンには、ある意味ではショッキングかもしれない。


09/01/17
遠藤 徹「くくしがるば」(角川書店'07)

 『姉飼』で第10回日本ホラー小説大賞の大賞を受賞している著者による、中編+短編の小説としては三冊目となる作品集。

 その国はミカドという、異様なる性欲を誇る変態オヤジが頂点に立っていた。彼は王宮に住み、夜な夜な女性を取っ替えしていたが、最近はキャバクラ嬢にご執心。一方、ミカドの娘の一人で、王宮の離れに隔離されている有馬温泉駅前旅館皇女が三日前に懐妊したとの報が飛び込む。しかし皇女はこのような名前を付けられている通り、ミカドからは冷たくあしらわれている一方、見るもの全てを砂に変えてしまう特殊能力で、幼少からお付きとして仕えている閻乃魔子を除く、召し上げられた人々を次々と砂に変えてしまっていた。ミカドは皇女に対し、砂漠化を食い止めることを大義名分として、王女に対して宣戦布告。親友の綾小路鞠麿に作らせたアンドロイド兵士を送り込む。しかし、その兵士・忍ぶと皇女がなんと恋に陥ってしまうのだ。『くくしがるば』他に『おがみむし』を併録。

奇妙なテンションで綴られた謎の文章がえんえんと続き、謎めいた巫山戯た物語を紡ぎ上げる
 表題作は長めの中編。
 作者の意図を直接どこかで聞いたわけではないが、古今東西の文学のみならず、様々なテレビ(アニメから特撮、CMに至るまで)や映画等のパロディめいた表現が横溢。誰を笑わそうとしているのか分からないような、脱線しまくりの奇妙なハイテンションによって物語が記述されている。ミカドに姫に閻魔大王、アンドロイド兵士に改造人間といった筋書きだけを真面目に辿ると、それはそれでストーリー自体は、酔っぱらって考えたのではないかというくらいに変てこ。 それぞれの人物描写も超絶に変態(さまざまな意味で)ばかりで、彼らが織りなす狂気に満ちた饗宴は、読者の感情移入を必要としていない。
 で、どうか、というと。
 これが面白い。
 何が面白いか説明がつかないが(こちらも酔っぱらいだったせいもあるのかもしれない)、なんか、けたけた笑いながら読んでいたのであった。ただ、面白がれる性格でないときついかもしれない。くそ真面目な方は、そもそも読まないが吉。
 ちょっと引っかかったので調べてみるとwikipediaでみる限り、地蔵菩薩のサンスクリット語は「くしてぃがるば」みたい。無理矢理に仮名を割り当てているわけで、別に「くくしがるば」でも構わないのだとは思うのだけれど。
 付け加えられた短編『おがみむし』は、(少なくともこれまでの)遠藤徹らしいテイスト。人間の心臓を取り出して食べちゃうことで相手を支配する、というあっけらかんとした設定が壊れたホラーという従来テイストに近い。十二人の女性が一人の男性に尽くすというハーレム状態を、女性の視点で描く。この男も、新たな女の子も以前からいる主人公とその仲間の常識から外れており、彼女らの行動や生態(?)は読者の常識から外れているという三段構えの作品。異形の愛と哀しみがじわじわと表出してくる展開で、こちらの方が一般向け。

 とにかく、フツーの小説に飽きてしまったという方に対しては超絶にお勧め。普通じゃない小説世界を体験できることはまず請け合い。遠藤徹という作家の奇妙な底の深さ/或いは浅さを感じさせる、実に奇妙、且つユニークな世界を味わわせて頂きました。


09/01/16
浅暮三文「ぽんこつ喜劇」(光文社'08)

 文庫書き下ろしで刊行され、世評を奪い去っていった実験小説の傑作『実験小説 ぬ』を発表している著者が、満を持して発表した、実験小説集・続編。『小説推理』2006年2月号から2008年11月号にかけて(2月、5月、8月、11月号)に定期的に掲載されていた作品がまとめられている。

 さて、本書の内容についてだが……。いわゆる粗筋を説明するの、無理やん。その形式そのものが既に小説の一部であり、ある意味では全部であるわけで。

ということで、グレさんが、またやってくれました。
 とだけ。なんというか、『ぬ』が面白く読めた人にとっては最高の書物。そうではない人には意味不明(の可能性あり)。なんたって、普通、表紙を開いたところのカバーに「【問題】 この本のタイトルを選べ。1.ああ無情 2.レ・ミゼラブル 3.銀の燭台」こんな問いかけがいきなり現れません。しかも、そのカバーをそっと捲ると本の本体の方に申し訳なさそうに「4.ぽんこつ喜劇」とあるではないですか。本の後ろ側にも同様の仕掛け有り。「この本の正しい著者を選べ」。はいはい。しかし、カバー袖と本体に異なる著者紹介があるというのも。カバーの方の著者紹介は「著者遠影」で作者がどこにいるのかよく判らないし、末尾の文章は「寒風にさらし、煎じて飲めば乳幼児の夜泣きに効く。」 どうやって? というツッコミはお約束と言えましょう。

 アサグレなる人物から編集部に次々と届けられる小説のアイデア。ああ、地蔵忍法帖はこんなところで使ってはいけないというのに。 『第一話 プロローグ』
 あのよく知られた人間を示す記号。頭が○で胴が|で手と足が∧で現されているアレです。イラストがそんなので物語が進みます。なるほどー。 『第二話 ミスター・サムワン』
 スーパーで買ってきた野菜が喋ります。ナスビはドキドキ、キュウリはキッチリ。キャベツはフムフム、ピーマンはウッカリ。そして、彼らは八宝菜になりますよ。 『第三話 八宝菜は語る』
 このゆびパパ ふとっちょパパ  やぁ やぁ やぁ やぁ  ワハハハ ハハハ おはなしする。ということで指たちが骨肉の争いを繰り広げる残酷(?)物語。 『第四話 十指相関図』
 宇宙を股に掛ける星占い。あなたのラッキーカラーは何? 十二星座だけではないですよ。 『第五話 星を巡る言葉』
 ある星から発見された石板。文字らしきものを解読するとそこから現れたのは。読む時に本をぐるぐる回す必要あり、電車内注意。 『第六話 八枚の石』
 本当にそうやっているのかは判りませんが、殺人現場とかで死体を移動したあとは白墨でその位置が記されているようです。こんなのもあるのかもしれない。 『第七話 博士の事件簿』
 相談を承る人は、結局その人の経験の内部、常識のなかからしかアドバイスは出来ない。その限界を痛感させられる話。 『第八話 こちら相談室』
 『VOW』とかで変な看板を取り上げるのがあったけれど。実際にそんな看板ばっかりでしかも意味が。この不安感をどうすれば良いのか。 『第九話 海へ』
 日常生活のなかの渦が嫌で嫌で嫌で困った。拡大解釈すればなんでもありというお話。 『第十話 渦』
 ハンガーが現在のようなかたちになるためには、数多くの試行錯誤があり、かつ偉大な一人の人物がいたという世界秘史を貴方だけにこっそりと。 『第十一話 或る発明史』
 この作品集は非常に読者にやさしい。なぜなら、使用時の注意についてきちんと説明がなされている。しかも付属品も無料で付いてくる。 『第十二話 エピローグ』

 さて、これで大体この本の中身は全てです。全部説明しつくしているので、グレさんから営業妨害だと言われないか少し心配なのですが、大丈夫でしょうか。


09/01/15
高田崇史「カンナ 天草の神兵」(講談社ノベルス'08)

 高田崇史氏のデビュー十周年を記念して開始された新シリーズ、「カンナ」の二冊目。前作『カンナ 飛鳥の光臨』に続いて、期間をあまり空けずに刊行されている。

 実家の出賀茂神社にて師走の社務に勤しむ鴨志田甲斐・二十六歳。先の事件で、日本史の常識を覆す社伝(ただし、本物ではないようだ)を盗まれ、どうやらそれに甲斐の高校の先輩・早乙女諒司が絡んでいるらしい。父親の完爾と、神社で働く丹波の二人から、諒司が熊本で目撃されたので、調べるよう言われる。当然のように丹波の孫娘で巫女のアルバイト・中村貴湖も同行を申し出、更に甲斐を訪ねてきた『月刊歴史探求』に勤務する柏木竜之介もなぜか同行することになってしまう。現地では、ロザリオ園というところに匿われていたのが諒司らしいと思われたが、彼の世話をしていた人望厚いシスター・藍子が失踪のうえ、撲殺死体となって発見される事件が発生していた。しかし、教会内には邪な気持ちを抱く人物がおり、調査のために周辺を嗅ぎ回る甲斐や貴湖は、その何者かに標的とされ危険な目に遭う……。四男でもないのに、なぜ天草は”四郎”時貞なのか。島原・天草の乱の本質は何だったのか。事件に巻き込まれた彼らはまた、歴史の謎に直面する。

歴史に対する独自のアプローチが軽めにまとめられ、全体の流れが優先されている……?
 「伝奇アクションと歴史推理の不思議な融合」という不思議な手触りだった一作目に比べると、再びまた手触りが異なってきている印象を受けた。というのも、アクション場面がないわけではないのだが、貴湖が危険な目に遭う場面以外は明らかに前回に比べると控えめであるし、エピソードによっては恐らく今回のみの登場人物による視点によって描写される分量が多いように見受けられた。世界観を説明するという役割を担っていた前作に対し、今回は素直に人捜しを行いつつ、その地の歴史の秘密に触れる、という感じが強く、少しQED寄りになっているかな、という印象だ。殺人事件も発生しているものの、本格を意識したミステリとも少し異なるように思える。
 対象になる歴史部分は、天草四郎という人物に関する謎、そして「島原・天草の乱」と呼ばれる歴史的事件に対する新解釈。甲斐と竜之介の冒険とも関連する四郎にまつわる暗号も面白いが、乱の内部から世界を捉えた時に変転する「島原・天草の乱」の見え方により強い興味を覚える。 周辺の事象に関する知識を固めたあとに、これまでQEDで為された歴史感覚を取り入れると、丁度感覚として平仄に合うように思えるのだ。なんと哀しい事件だったのか。ただ、惜しむらくは全体的に物語が薄いので(分量という意味でも、作品という意味でも)、蘊蓄や引用が限られてしまうため、このあたりもまた薄く見えてしまう点。語られている内容自体の重みは大きいのだけれど。

 今回は事件の方に重きがありすぎたか、問題の人物・早乙女諒司とは「母をたずねて三千里」状態になってしまっている。(もしかするとこのパターンは継続される?) それはそれでも構わないので折角QEDとは別シリーズでもあることだし、個人的には思い切り伝奇の方にメーターを振って、現代に蘇る忍者みたいな荒唐無稽を読んでみたい。でも、それを望んでいない読者の方が多いのかな……。(暗号を解かないと脱出できない秘密の隠れ場所というあたり既に荒唐無稽といえばそうなのだけれど)。


09/01/14
佐野 洋「第六実験室」(角川文庫'76)

 元版は1962年に早川書房から書き下ろしで刊行された「日本ミステリシリーズ」一冊目にあたる。その後、角川文庫が刊行されて今に至っており、復刊はされていない。

 戦後に発生した未解決事件・迷宮入り事件を解決するという目的で、中央電鉄社長・鳥羽辰彦らにより『完全犯罪研究所』が設立された。所長に就いたのは、鳥羽社長の親友でもあり、犯罪学の著書のある女子大教授・春部良介。警察組織とな異なるアプローチによって新しいタイプの犯罪事件について研究しようというものだった。中央電鉄から出向し、春部の秘書となった宮村整子は、春部からこの研究所で見聞きしたことは絶対の秘密にするよう要請される。春部がまず開始したのは、高給をもって”被験者”を集めることであった。募集広告に釣られ、多くの人々が面接に訪れるが、その選抜理由が変わっていた。交通費として規定の金額よりわざと多く手渡して反応をみるというものだった。全く動じず猫ばばしてしまう人々が、面接で残り、更に良心がなければないほど良いという段階を踏んで選抜を行ってゆくのだ。面接の途中、整子は鳥羽社長の命令により、春部のスパイをさせられることになる。春部の眼鏡に適い、最終的に残ったのは、男二人、女二人。春部は続いて、実際に犯罪を行うなら、という条件を彼らに課し、様々なディスカッションを行わせる。

奇妙な組織に奇妙な手紙。果たして完全犯罪は存在するのか。それはどういったものなのか。
 佐野作品をそれほど読んでいないが、推理小説は現実に立脚してあるべきだという趣旨の持論を持たれる佐野氏からすると、この人工的(フィクショナル)な構成はかなり異色なのではないか。とはいえ、非合法組織を立ち上げるわけでもないし、この所長たる春部という人物が何を考えているか、何をやろうとしているのかが、かなり判りにくいだけで、あり得ない話と切って捨てられないところが微妙だ。
 物語の中盤までは春部によって計画・実施される犯罪者的要素を持つ人間の選抜試験というエピソードが多くを占める。この部分の細かな工夫が面白く、そこまでぐいぐい物語が進む。後半は選抜をくぐり抜けた所員たちが、ある家庭の周囲に姿を見せるようになり、怪しい動きをしていく展開となる。この部分では所員の目的は具体的に描かれず、しかしてその家庭で毒物による殺人事件が発生、その妻と、家の女中(これが所員)が疑われる――。作為があることが判っていながら、なんともその真意が見えないまま事件が進行してゆく様はどうにももどかしい。 犯罪者性格をもった所員たちがさまざまな役割を帯びてが送り込まれ、しかし……。
 終章にて、春部の目論見、鳥羽の推理といったところが語られ、先に発生した事件の意味合いが何だったのか、という点がはっきりする。ただ、彼らがラストにがっちり握手するといったところ、なんとも背筋が寒くなる結末である。終わってみれば、個々のエピソードがインパクトをもたらす読書体験となりながら、それらが繋がったところに「ある絵」が描かれるという、構成に凝った本格ミステリであることに気付かされるのだ。

 発表年代から後、様々なタイプのミステリが多数発表されているなか、本書はそのどれにも似ていないという不思議な手触りを持つ作品だ。完全犯罪は、本当に計画的に実行が可能なのか。なんとも恐ろしい内容が心に引っ掛かるような読後感をもたらしてくれる。


09/01/13
定金伸治「四方世界の王1 総体という名の60(シュシュ)」(講談社BOX'09)

  定金伸治氏は1971年生まれ。'91年に第1回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞に『ジハード』が入選してデビュー。同作は最終的に全11巻にも及ぶ作品となり定金氏の代表作となる。他にもライトノベル中心に作品があるが、異色作として また、乙一らとのトルコ旅行を綴った『とるこ日記』がある。本書は2009年に新規開幕する、講談社BOX名物。大河ノベル。

 紀元前1800年。古代オリエント文明が栄えるなか、この東方の地では群雄が割拠していた。アッカドの地有数の都市・バービルムの神殿学校に通う学生・ナムル=ナーシルは、遅刻をきっかけに隣席に座る女子学生・シャズ=フラシュムと知り合う。市場で筆記の手伝いをするナムルの前にシャズは再度現れ、小さな盗みをナムルに見せつける。その盗みがきっかけでシャズは市場の用心棒に襲われるが、空間を操る不思議な力をもって彼らを撃退する。シャズはナムルにマルドゥークの欠片、そして『小胞』について話をした。シャズ自身が力を持っているが、どうやらそれを知覚できるナムルもまた特殊な能力を持っているようなのだ。シャズは市場の実力者・イッディンラガマールの養女であり、市場の主導権を巡る小さな戦争がナムルの初陣となった。そして――パービルムの王子・ハンムラビ、アッシュールの英雄・シャムシ=アダド、ラルサの帝王・リム=スィーン。“四方世界の王”の名を戴くのはただ一人。最後に立っている者は果たして誰なのか――。

2009年の大河ノベルが開幕。古代オリエントを舞台にした壮大なファンタジーは大河の名に相応しい
 一冊目ということもあって、世界観に追いつく(まだ、特殊能力の部分についてはよく判らない部分があるが)のに時間を要したが、このシリーズはファンタジーとして傑作になる予感がする。 決して一冊目として分量自体がそれほどないなかに、世界観や時代を過不足なく詰め込み、さらに物語の狂言回し(恐らく今後)となるナムルと、謎めいた少女・シャズとの関わりを通じて、同時に世界の見方について補足してゆく。このあたりの段取り、手順がスムースな点がまず上手い。
 また、恐らく今後繰り広げられる戦いからすると小規模な戦いを、智恵で切り回すシャズの姿が描かれる。物語として、この一冊のなかではここがクライマックスなのだが、その謀略であるとか戦い方といったところも、作品世界のイントロデュースとしては適当なものだろう。この戦いの前後を通じて、ナムルというシャズという少年・少女の不思議な関係(運命のツンデレ? とかいえば良いの?)も醸成されてきており、青春小説の変形として楽しむことも今後出来そうだ。 愛の(?)キーワードは「マヌケが」。この一冊だけで何回繰り返されているのかな。その言葉自体が決して相手を単純にバカにしている意味で使われていないのであまり悪い印象がない。
 現在、もう一つ進行中の島田荘司『Classcal Fantasy Within』も、似た地域・時代を取り上げているが、双方アプローチが異なっているところが興味深い。『CFW』の場合は、世界設定がファンタジーで人間は現代的であるのに対し、本作は世界は基本的には歴史的現実に近いところをなぞっており、逆に人間サイドにファンタジー要素を持ち込んでいる。この結果、両方の作品の感触がかなり異なるものになっている。(ただ、『CFW』は最終的にミステリに着地するというので……)。

 薄い一冊であるのだが、当初は学校内部の小さな話からスタートし、そこからほとんど一直線に物語が進行しつつも、恐らく今後を担う、大物登場人物が顔を出してきている。今後、彼らがどう絡んでゆくのか。どういった展開が待ち構えているのか、正直かなり楽しみに次作(即ち来月か)を待ちたい。


09/01/12
篠田真由美「黒影(かげ)の館」(講談社ノベルス'09)

 もう十年来のシリーズ作品であり、篠田真由美さんの代表的探偵でもある「建築探偵・桜井京介」シリーズも、本書を含めて残り二冊と作者に予告されている。探偵役にして、その過去がほとんど語られてこなかった、桜井京介自身の事件。

 少しずつ身辺を整理していたのか、深春と蒼もはっきりと気付かないうちに桜井京介は姿を隠していた。彼自身の事件に立ち向かうため――。京介の態度について納得の行かない深春と蒼は、京介を高校時代から世話していた神代宗のもとへと向かう。神代は、二人を前にして渋々ながら一九八〇年、京介と神代が最初に出会った事件について話始めた。神代がまだイタリアに居り美術史を学んでいた頃、養父が突然死亡した。養父と反りが合わず反発を繰り返していた神代は、その深い愛情に触れて傷付いていた。そんな時期に、養父の父親と親交があったという門野という老人が現れ、神代を旅に連れ出す。自暴自棄でもあった神代は門野と共に、北海道の奥深い田舎町へとたどり着き、トレジャーハンターを自称する男・猿橋と出会った。しかし、その夜に猿橋は毒殺され、門野は神代を置いたまま立ち去ってしまう。地元住民に訳の分からないまま軟禁された神代は、真鍋という医師に連れられ、久遠という一家の住む、町を支配する巨大な屋敷に連れて行かれた。そこには久遠アレクセイという大人びた美少年がいた……。

ついに明かされてゆく桜井京介の過去。大シリーズである建築探偵も本書を入れて残り二冊
 建築探偵シリーズ、本編としては十四編目になりますか。現代、過去と主人公たちが成長する物語において、読者たるこちらもまた年齢を重ねてゆく。その意味ではこれもまた「大河ミステリ」であるような。
 さて、本作では篠田さんは、これまで建築探偵シリーズで意識してきた事柄(もしくは呪縛)から解き放たれたような物語づくりを行っている。あとがきでも作者本人が述べているのであるが、実はこれまでの建築探偵シリーズは、登場人物の成長譚にして個々の作品が本格ミステリであることを意識した内容であった。その「本格ミステリ」だという縛りから離れ、本書は北海道の僻地に建てられた曰くある屋敷と、時と世間から切り離された状態でその地で暮らす一賊とが描かれており、もはやミステリというよりも、その遠い祖先であるゴシック小説といった様式となっている。   その結果、この地で屋敷、そして強大な力を持つ当主が作った結界にして牢獄のような空間で生活する人々の狂気が狂おしく浮かび上がる作品となっている。複数の人間が作品内で他殺で亡くなっているし、過去に京介の母親が奇妙な状況で亡くなったこと、さらにこの一家のルーツ等々、謎めいた部分も多く、一般的なミステリの要件は満たしている。それでいて、立ち上るのは、謎が解かれた快感ではなく、狂気めいたところから生まれた更に強烈な狂気。舞台設定から、登場人物の狂奔を浮かび上がらせてゆくこの構成、さりげなく巧みである。
 ただ――、作品で登場した謎については解決がなされているものの、まだ最終作品を残すのみといいつつ、物語全体の謎の答えがほとんど出てこない。果たして次の作品、一冊で全ての伏線が回収されるのか。興味深いところである。

ちなみに、『灰色の砦』『原罪の庭』『美貌の帳』『桜闇』『胡蝶の鏡』『一角獣の繭』を未読の方には多少判りにくい表現がある……ってここまで来るとシリーズ読者でしょうから。本書から読む酔狂な方はそういないと思うし。黙ってあとは最終作品待ち。弁当箱クラスのサイズも考えられるなあ。


09/01/11
西尾維新「真庭語 初代真庭蝙蝠 初代真庭喰鮫 初代真庭蝶々 初代真庭白鷺」(講談社BOX'08)

 題名は「まにわがたり」と読む。2007年、講談社BOXの開幕を飾った大河ノベル「刀語」シリーズに、悪役(?)として登場した、真庭忍軍の主要忍者のかつての物語。厳密に大河ノベルで描かれた時代よりも二百年くらい前の話にあたり、サイドストーリーともスピンオフとも異なるが、世界が繋がっていることは間違いない。

この国が戦国で、この世が乱世であった頃のおはなし。相生忍軍と戦いを繰り返す真庭忍軍。頭首・真庭鳳凰による組織改革案により、十二人の頭領を定めることになった。蝙蝠はその一人と目されていたが、本人にはその意欲がない。そんななか頭領を狙う若き忍者・真庭春蝉によるデモンストレーションが行われようとしていた……。 『初代真庭蝙蝠』
 常に自分が闘うのは世界平和のために、と言って憚らない変わった女性忍者・真庭喰鮫。水を自由に操る「渦刃」なる忍法、そしてある理由から彼女は恐れられており、十二頭領の一人として確実視されていた。 『初代真庭喰鮫』
 忍者にとって必須ともいえる小さな身体が得られず、巨体を持て余して拳法を極める真庭蝶々。地味な性格の彼は人に仕えることで自らを納得させていたが、一人の拳法家との戦いによって彼の運命は大きく変化する。 『初代真庭蝶々』
 十二頭領の一人候補でありながら、その忍法すらどんなものか判らない協調性ゼロ、しかし任務達成率百パーセントの忍者・白鷺。真庭の観察者・真庭狂犬は、鳳凰の依頼により白鷺の適性について調査を開始する。 『初代真庭白鷺』 以上四編。

四人四様。まにわにの知られざる(?)過去、そしてその不思議な人間関係
 一応本書だけで読むことも、もちろん不可能ではないけれど、基本的には『刀語』読者を対象に発表された人物伝。 作中エピソードから判断するに、時期としては、鑢一根との真庭蝶々の邂逅場面があることから、『刀語』本編からすると六代前頃の話。ただし、個々の真庭忍軍の性格は後の作品からもそう変わらず(ま、他の理由から変わっていない忍者もいるが)、世界観としては共通している。
 あくまで個人的にツボに入ったのは、この第一話にあたる『真庭蝙蝠』の話。本人ではないが、若き忍者が忍術のデモンストレーションのために、土遁の術と称して、空気穴無しで広場に埋められ、一週間後に生還するのだという。しかし、その忍者・春蝉は残念ながら失敗した。しかも、それは誰も触れることの出来ない土中の空間内で縄で絞殺されているというものだった。と、と、ということは、これは紛う事なき「密室殺人」じゃないですか。設定特上。土の中に埋められ、掘り出された死体はなぜ絞殺されていたのか。……答えは……。謎の設定の方式が思い切り通常の本格ミステリ風につき、思いっきりミスリードされてしまった。しかし、この「解」もまた素晴らしい。短編のバカミスとして非常にインパクトの強い作品であった。
 一方、他の作品はどちらかというと人物伝の印象が強く(いや、そもそもそういう意図で執筆された訳か)、あくまでそれぞれの忍者の抱える秘密そのものが、読者にとっても謎として提供されている。こちらは、物語で、というよりも当初設定からだとは思うが、個々の忍者の個性の方にめちゃくちゃ強烈なインパクトが残っている。

 好事家向け。『刀語』を読まずして本書だけを読んでも、たぶんほとんど意味が分からないと思われる。ただ、実際『刀語』をコンプリートしている身には、むしろ大きな御馳走として楽しませていただいた。あ、そういや『刀語』のアニメ化も決まったようで。