MYSTERIES THE PRIVATE COMFORTABLE "LITE" 国産ミステリ・レビュー簡易版
MYSTERIES THE PRIVATE COMFORTABLE フクさんの独断偏見に満ち満ちた感想・書評群。

 −著者名別索引 及び読書歴(平成編)−
 −著者名別索引 及び読書歴(昭和編)−
−著者順全部索引− 


14/11/11
我孫子武丸「特捜班危機一髪 警視庁特捜班ドットジェイピー」(光文社'14)

 『警視庁特捜班ドットジェイピー』の続編。『ジャーロ』に『警視庁特捜班ドットジェイピーふたたび』として連載されていた作品の単行本化。本にするにあたり大幅に手を加えられたとのことで、結末も変更されている模様。

 警視庁のイメージアップのために警視庁内の美男美女(但し中身は超問題児)を集めて結成されたドットジェイピー。単なるお飾りのはずが、前作では各自がその手練手管を駆使することで誘拐事件を解決させた。だが、彼らは一方で都知事や警視総監の恨みを買ってしまっていた。特に豪放なイメージが自慢の篠原都知事は自分がバージンホワイトから公衆の面前で投げ飛ばされ、醜態を晒したことから恨み骨髄。本作ではドットジェイピーのイメージダウンを図るべくSPすら巻き込んだ都知事による狂言事件が仕組まれようしていた。更に送り込まれた美男美女の兄妹SPが内部からドットジェイピーを崩壊させようと企む。(ああ、結局あらすじまとめちゃいました)

 この作品、自分的なノリと作品の波長が非常に近く、細かな内容のリアリティはとにかく、某所で警察小説のベストの企画があった時に強く前作を推したことを思い出す。ただ、やっぱり警視庁のイメージアップとして、ゆるキャラではない方向でイケメンと美女のチームを作るというノリは「あり」だと思うし、そこで彼らが特殊な能力を持っているというところもやっぱり「あり」だと思う。

 本作は、彼らの能力というよりも、彼らの活躍によって周囲がどういった感覚・感情で彼らの存在を捉えるか、という部分がむしろメインのテーマとなっているようだ。その結果、当事者の想像以上にいろいろな利害が食い違い、メディアで周知され人気あるドットジェイピーと、その人気を妬み、彼らを陥れようとする陰謀とのすれ違いが面白おかしく描かれている。 この「やり過ぎ」感、登場人物のドタバタ劇のコントロールがコメディ映画的に立体的に描写されているところが、本作を上質(?)のエンターテインメントたらしめている理由だろう。 やっぱりテイストとしては合うんだよなぁ。上質かどうかは読む人の価値観とかで変わりそうだけど。

 前作を面白く読めた方は是非こちらも。前作を読み終わった時に続編を強く希望したら叶った(お前の希望で叶った訳では無いというのは置いておいて)ので、続々編も強く希望しておきます。


14/11/10
霞 流一「フライプレイ! 監棺館殺人事件」(原書房'14)

 書き下ろし。

 刊行時のキャッチコピーは「『探偵スルース』+『熱海殺人事件』に鬼才が挑む!」 ひとことでいえば、計画された犯罪計画をどんどんエスカレートさせるミステリってことになるか。

 売れないミステリ作家、女性編集者、その元秘書兼ライター、作家の愛人と更に呼び寄せられ、名探偵役を振られる演劇家。コミカルな殺人事件が発生し、後から本格の見立てを施し、名探偵に推理させるという趣向に加え、誰もがボケ役、ツッコミ役を難なくこなす展開はシリアスなものとなり得ない。言葉遊び、それを言ったら身も蓋もないという登場人物同士による言葉遊びのテンポは相変わらず。

 ただ、霞流一氏のこのノリ、改めて考えるに非常に独特だ。「三人よればフーダニット」等々、シニカルであり、シュールでありながら、芸人がアドリブで発するようなボケツッコミとは一線を画している。本作のみでいうことでもないが、改めて思うに小劇場のお笑い系の演劇のノリが近いように思う。テンポは良いけれど、そこで交わされるやり取り、きっちり計算されている。ちょっぴり、ノリや主題に最先端の指向はなく、どこか古くさいのもご愛敬。

 「後から作られた密室殺人事件」が四人の探偵役によって、現場に後から現れた探偵役すら犯人に指名されるという四すくみの展開、作り上げちゃうところに唖然。さらに全身タイツを使ったトリックとか、前人未踏の境地に至っちゃっている。惜しむらくは、濃すぎるノリと飛び交い過ぎる推理、更に伏線全てを回収せんばかりの終盤まで終わらないどんでん返しの連続により、ミステリだとしかいえないけれども、小説でもない別の何かになってしまっていることか。

 読み終わって残るのは「超絶な趣向」のみ。そのインパクトは抜群なんだけど。本格ミステリ好きでも結構読み疲れるのではないかと。


14/11/09
乾くるみ「北乃杜高校探偵部」(講談社ノベルス'13)

 『メフィスト』誌に2009年から2011年のあいだに発表された「北乃杜高校」シリーズ短編五編がまとめられてノベルス化されたもの。冒頭の『《せうえうか》の秘密』については、同じ講談社ノベルスのアンソロジー「メフィスト学園」の一冊に収録されたことがある。

 京都にある名門・北乃杜高校。二年生に進級したサッカー推薦の清水克文は、一年の時から赤倉志朗、横井圭、山科桃子、稲川みどりら四人と集まって謎解きをした経験があった。二年になっても、学校に伝わる逍遥歌に歌詞にまつわる秘密、修学旅行中のブログにアップされた物騒なメッセージ、平安貴族のコスプレをしてのパレード、そして卒業式前にチェーンメールされた人気教師の歯列矯正の写真……。事件そのものは手堅く地味ながら、その推理の過程は論理的かつ、高校生ということで、むしろ派手さを抑えた筆致により、不思議な余韻を持つ青春ミステリとなっている。

 『記録された殺人の記録』は題名がある先行作のパロディだし、『牛に願いを』も、米澤穂信氏のある作品が頭にあったのではないかと思う。ただ、そういったパロディ・パスティーシュの意識はあまりなく、乾氏なりに高校を舞台にしたミステリがやりたかったのかなー、とミステリや意図としての狙い以上に作者の気持ちのようなものが感じられる気がする。近年のラノベ等でみられる、「ねーよ!」といったレベルの色恋ぼけ学生たちは一切登場しない。一方で名門高校らしい強制的?な品位と縛りに満ちた学園生活のなか、清水と稲川のお互いに意識しながら一歩を踏み出せない淡い関係など、控えめに恋愛感情を描くことによってむしろ妙にリアリティを覚えた。
 むしろこの、「抑えた青春ミステリ」という部分がもしかすると、近年のラノベ系青春ミステリのアンチテーゼ?としての意義を狙っていたりするのではないか(考えすぎか)。

 さりげなく取り扱われる「謎」が凝っていて現役高校生の情報だけでは解けないところもポイント。つまり歴史ある高校を舞台としていることから、縦軸としての「学校の歴史」に関係する話が多い。三年で世代が入れ替わる学校だからこそ発生する謎というところに意識的に着目しているところもユニークかと。

 ただ、先にも述べた通り全体的に派手さがないため、今風の学園ミステリに慣れている人には物足りなく映るかもしれない。が、滋味深い作品集なので味読できる人にはお勧め。


14/11/08
有栖川有栖「怪しい店」(角川書店'14)

 『野性時代』『小説屋sare-sari』に発表された、有栖川氏曰く「店」をテーマにした火村シリーズ作品集。冒頭の『古物の魔』が少し長め、二編目の『燈火堂の奇禍』が少し短い、五編による短編集。

 古物商が店で殺害されて弟子が発見した事件、古書店主が万引犯人を追って自損で重傷を負った事件、芸能プロダクション社長が愛人を少し変わった理由で殺害する事件、火村が偶然訪れた閉店日当日の海辺の理髪店の事件、そして他人の悩みを聴くだけの「みみや」で発生した事件。いわれてみると店だけど、それほど強烈な縛りになっている印象はない。

 ベテラン作家にこういうことをわざわざいうのも変なのだけれど、本格ミステリでありながら犯人や容疑者、被害者が駒扱いされていない。ある程度、小説として人間味を出すかたちで構成されているため、ミステリでなくとも、犯罪に手を染めざるを得なかった犯人たちや、無念にも殺害されてしまう被害者たちの性格や人柄が一編一編できっちり描かれている。
  『古物の魔』のラスト、有栖川が古物商から譲られようとした大阪切子に対して発した言葉の深み。『潮騒理髪店』の店そのものが醸し出す”床屋”の気持ちよさ、そして味わい。これ読んだ日に髪切りに行きましたよ。古書店『燈火堂』のルールも現実ぎりぎりのラインで面白い。店を描くということで、その店を通じた経済活動にかかわる人たちが活写されている印象。

 有栖川氏の仕事、本格ミステリとしてきっちり仕事していることは事実ながら、正直、個々の作品が持つ叙情や浪漫といったところの方に強い印象が残った。無理して不可能犯罪が作られるよりも、これはこれで深みがあって良いです。


14/11/07
伊坂幸太郎「首折り男のための協奏曲」(新潮社'14)

 『Story Seller』『小説新潮』『新潮』『yom yom』、更には『幽』など様々な媒体に発表された作品に手を加えられ、緩やかな連作集となった作品。

 首を折って標的を殺害する殺し屋・首折り男、彼に似た男、子供を事故死させられた男、脅迫される黒澤と老夫婦、クワガタを飼育する作家・窪田、窪田の友人の二代目社長、さらに合コンに飛び入り参加した男──。

 それぞれが独立した短編としてまず成立している。更に語り口をいろいろ変えつつも、基本的には伏線の鬼・伊坂幸太郎の面目躍如。作中のさりげない固有名詞や登場人物が重なり、ある作品でのちょっとした事象が別の作品で意味を持ったり、本書以外の別作品の登場人物と繋がっていたり。改めて思ったのだが、そこに「読者を気付かせる」ところも改めて流石だと思う。テキスト内部で作者に教えられて読者が気付くのではなく、自分でエピソードの中から見つけ出す面白さ、これを意図的に演出しているようにみえる。つまり、一冊のなか、更に伊坂ワールド内部で繋がりを作っておいて、それを読者に敢えて気付かせて「おっ」と思わせることで、作品群への親しみを強化している。(恐らくデビュー時からの天然センス)。凄いですよねぇ。

 さて、作品集全体的には勧善懲悪というか天網恢々疎にして漏らさずというか、読者が納得ゆくような因果応報を緩やかに織り込んでいるところで共通している。が、面白いのは、「人間らしく」という短編のなかで書かれている「神様はいるんですよ。隣の部屋で仕事をしているだけです。気が向けばケースを覗いて、そこで気付けば、助けてくれますし」「神様はいつもこっちを見ているわけではない。その点はがっくりきますけれど、ただ、見ている時には、ルールを適用してくれるんです。」という微妙なスタンス。当たり前といえば当たり前だけれども、こうやって言葉にされるとナルホドと思うじゃないですか。

 そして、近年の作品群のなかではこの『首折り男』が、伏線の絶妙な組み合わせを特徴とする伊坂氏らしさがより強く滲みだしている印象。全体を通じての主張やテーマ性が薄く、読みやすいうえに味わいが深く、幅広くお勧めできる作品。広義のミステリではあるので残酷な場面は皆無ではないですが。


14/11/06
三津田信三「どこの家にも怖いものはいる」(中央公論新社'14)

 三津田信三氏書き下ろしのノンシリーズホラー。セミドキュメント形式で三津田氏自身が作中に登場、過去作品などへの言及もある。

 三津田氏と若き編集者・三間坂とが見つけた「何か共通点があるようにみえる」実話と思しき五つの話。時代も場所も異なり、その形式も作者も違っているにもかかわらず、その背後にあるものに何か忌まわしいものが存在するのでは──。

 実話を装った展開。作者の三津田氏、例えば『幽女の如き怨むもの』の執筆状況がリアルタイムっぽくアップデートされるなど時系列が具体的に展開する。そんななか三津田ファンの編集者が持ち込む、異形の物語。まずはその個々の話がなんというか、怖いのだ。
 家のなかに「何か」がいる話。森の中で「何か」に追いかけられる話。アパートに何かが潜む話。家の中にいるはずなのに誰もいない話──。 どこかで読んだことのある(具体的にいうと、これまでの三津田作品のなかで既に体験している)ような描写。追体験だから無価値なのかというと全くそんなことはなく、どこかで以前に読んだ話に似ていても「怖いものは怖い」のである。普通に読んで普通に怖い思いをしたことが収穫の一つとするならば、「怖いものは何度体験しても怖い」、そのことを追認識させられたことが収穫の二。なんといっても、ページを捲る手が早くなっていることが自分でも分かるもの。

 個々の物語と共にメタレベルでの三津田氏が感じているであろう恐怖はまた脳神経の別のところが刺激されるもの。先の物語群が持つような直接的な怖さではなく、何か災いが近くで待ち構えているような実体の見えない怖さなのだ。これがまたイイ。最初から最後まで色んな怖さで痺れっぱなし。実話怪談風ドキュメント小説として、期待に違わぬ出来。満足。


14/11/05
石持浅海「御子を抱く」(河出書房新社'14)

 ノンシリーズの書き下ろし長編。

 中小企業に勤務するサラリーマンでありながら非常に徳とカリスマを持った星川安弘。彼のことを心から崇拝する取引先や同僚、そして目覚めぬ彼の遺児である「御子」を守る人々が、星川の死後に「正統派」を巡って対立し、ついには関係者に死者が──。

 相変わらずというか石持氏らしい、非常に特異なシチュエーションの設定が非常に特徴的。ある人物を尊敬しているということだけで普通に日常を送る人々が、疑心暗鬼に陥っていく様がユニーク。同様のシチュエーションであれば単純に新興宗教でも良さそうなところに一ひねりした設定としているところも注目すべき。宗教絡みの別価値観ではなく、普通の価値観を持つ人々による論理的な争いという部分にサスペンス性を持たせており、あまり類を見ない設定の小説となっている。
 面白いのは(ネタバレ)、人々が「御子」を巡って、星川の教えを継ぐために無私で争うなか、犯人の動機があまりに日常的・普遍的であるところか。(ここまで)特異なシチュエーションを得意とする著者らしい、ミステリとしては逆説的なテクニックであるといえよう。飄々とした探偵役も普通人っぽくて魅力的。

 ただ、ミステリを維持するため、小説としてはかなり極北に位置するような印象は否めない。特殊な状況に過ぎて、読者として感情を移入できる登場人物がほとんどいない。そのせいか物語展開になかなか入りこみにくい。一方、ミステリとしては先述通り、かなり高度なテクニックが用いられているともいえる。ある意味マニア向けかも。


14/11/04
長岡弘樹「波形の声」(徳間書店'14)

 徳間書店の『問題小説』『読楽』等に2009年以降に発表されたノンシリーズの作品が集められた短編集。

 年寄り同士の意地の張り合いであるとか、上下に差がついてしまった女性管理職の心理的な葛藤であるとか、通底しているのは、どんな立場・年齢の人間であれ、表に出そうと隠していようと他者との競争意識が大きな情動であることを、手を変え品を変え描いていることかな。もちろん、作品集の題名にある通り、レコードや携帯電話ほか「音波」その他「波」に類する要素をミステリとして音波とか扱っているという共通点が表看板。
 様々なシチュエーションを設定していながらも、結果的に全体として嫌らしくざらっとした読後感の作品が多く、好みが多少分かれるものと思う。
 また、使用されているトリックが全体的に”科学”寄りで、島田荘司氏提唱する(した)ところの「21世紀本格」の感覚に近い。そういう意味では、短いながら濃密に描かれる人間ドラマのなかに唐突に(?)、しかししっかり伏線付きで物理トリックが出てくる感覚は東野圭吾の「ガリレオシリーズ」のそれにもちょっと近いかも。

 個々の小説としてみるとトリックも情感も悪くないのだけれど、主題が同じにしてもどこか作品集一冊としてのバランスを欠いているように感じられたところが個人的には微妙。作者が作家としての幅の広さを誇示しているようにみえる、というのは穿ちすぎだと思うけれども。


14/11/03
連城三紀彦「処刑までの十章」(光文社'14)

『小説宝石』2009年1月号から2012年3月号にかけて掲載された長編作品の単行本化。連城三紀彦氏の遺作のひとつ。

 失踪した兄を追う弟と、その義弟を翻弄する兄嫁との(陳腐な表現だけど)禁断の愛。一種の「ごっこ」にもみえるこういった関係性を当事者視点で描くことで幻想的かつ浪漫的な世界が紡がれる。が、正直、胃にもたれるような重さがある。(好みだが) ただ事件にまつわるかたちで登場する複数の人間関係を、終盤で二重写しにして浮かび上がらせる手法などは唸るしかない。──そういう意図で配された人間関係でしたかー、巧いな。

 一方、ミステリの完成度という点では後半の展開が駆け足のせいもあり、正直、他の連城作品に一歩(二歩)譲る。
 ただやはり本作の特質は、全編を覆う背徳感と不思議な叙情感の描写が持つ異様な迫力にある。遺作である、という情報が読者に対する(小生に対する、か)バイアスとなっている点は否定できない。本来、ミステリという意味では刊行された連載作品がそのままではなく、十二分なブラッシュアップが加えられる筈だったのだろうが、無い物ねだりはしても仕方無い。むしろ作品の持つ(そして連城らしい道ならぬ恋の)生々しい迫力が、この出しっぱなしの単行本から十二分に立ち上っていることを楽しむべきだろう。

 絶対に連城ファン向けだと思う一方、広く読まれても良いのではないか(でも受け入れられにくいだろうなー)――とアンビバレンツな気持ちになる作品。


14/11/02
小島正樹「硝子の探偵と銀の密室」(講談社ノベルス'14)

 『硝子の探偵と消えた白バイ』に続く、シリーズ二冊目の長編。硝子の探偵・朝倉と助手の小太郎、更に複数の警察関係者が前作から引き続いての登場となっている。が、本作は本作で説明がされているので、こちらから読み始めても差し支えは無い。

 多摩湖湖畔にある大きな木の樹上でダイバースーツを着た女性の刺殺死体が発見された。雪が降ったにかかわらず木の周りに足跡はなく、更に木に登った形跡も見当たらない。更に近くにある邸宅内部で会社社長の女性が殴殺される事件が発生。家は内部から施錠され、防犯カメラにて監視された状態のうえ、やはり家に近づく者の足跡が無かった──。

 前作に比べるとミステリとしての不可能犯罪要素が更に強くなり、前作に存在したアンフェアとフェア境界のような記述も無くなって、全体に本格としてのレベルが大きく向上している印象。特に、木の上と家の中、タイプの異なる密室を更に双方とも三重にまで覆ってしまう「読者へ挑戦」するような態度は好ましい。
 もう一つありがたいのは、この硝子の探偵、シリーズ二冊目となるため、朝倉が「硝子の探偵」であることを認識したうえで読めること。この結果、前作ではストレスだった人格的に問題ある朝倉の発言や発想について、あまり気にならないことは助かる。
 ダブル三重密室について、本書で使用されているトリック根本については「あり」だと思うのだけれども、それを成り立たせるための小道具の使い方にちょっと疑問が。そもそも水溶性樹脂ってのが現実的にはかなり特殊なことは置いておくにせよ、猫の首や、猫が呑んだ水に残渣が残ってたんじゃないかーとか思うんですが。(こういう細かいことを気にしちゃいけないのかもしれないけど)。

 ただ、本作のような大胆な物理トリックを扱う新作が減っていることもあり、これはこれで楽しませて頂きました。はい。


14/11/01
小島正樹「硝子の探偵と消えた白バイ」(講談社ノベルス'13)

 2013年夏に著者が三冊連続刊行(本書の他に『十三回忌』『永遠の殺人者』)した際の一冊。硝子の探偵シリーズの最初の作品。

 警察車両を先導していた白バイ警官が、ビルに挟まれ突き当たりが公園という路地に入ったまま消失。更に射殺された警官と白バイがなんとビルの屋上から発見された。ビルは監視カメラが設置されているうえに階段やエレベーターではバイクは昇れない構造だった──。
 白バイの消失以外もいろいろネタが仕込んであり、いわゆるトリックを中心とした、本格ミステリを指向する物語作りには好感が持てる。
 ただ──事件の真相そのもの以前に、自意識過剰の探偵の一人称が読んでいてかなりうざったく、この探偵を作者が最後にどう遇するのかにむしろ気を取られてしまった。ユーモアを狙っているのかもしれないのだが、台詞や行動、最終場面を除く場所での謎解きに向き合う際に出てくる素人以下の発想等々「痛々しさ」ばかり目について笑うどころではないのだ。一方で、耳の性能が良く、よく気がつく探偵助手の小太郎の性格の良さと頭の回転の速さが目につく。──これは探偵の主従逆転か? ──と思わせるように、(たぶん)作者は狙って書いている。その大きな構成ももちろん本格ミステリとしての逆転技の一部である。

 物語の主題としては、こういったところからの「逆転」がひとつ肝ではあるのだけれど、それまでの朝倉があまりに痛いので、彼が快刀乱麻の推理を披露しようが(元々の好感度が低いので)読者としてはあんまりカタルシスが得られないところが物語としての大弱点だと思う。凡庸な探偵役とどちらが良いかというと難しいところだが……。