神秘 五股大根が、にこにこと喜ぶ顔
神秘 五股大根が、にこにこと喜ぶ顔

六月二十五日日曜日、向う角の上篠崎四丁目公園が朝早くから賑やかだ
どれどれっ、ちょこっと行って見るか・・・気ままに写すニコンD70を肩に掛け外に出た
又、バザー展でも遣っているのかと思って出て行ったのだが、今日は住宅フィステバルとかだった
其れでも何にかに引き寄せられ、公園の中に吸い込まれるように入って行ってしまったのは何故だろうか
公園の南側で、台の上に地元で取れた野菜を積み上げ、一人の御老人が如何にも農家の人らしく客寄せをしている
この様な光景に出会ったのは初めてだったので写真に撮っておこうと、御老人の前に出て行きバックからカメラを出し振り向いた
びっくり、ななんと其の御老人が台の上に積んだ小松菜や枝豆の前に新聞紙を敷き、ででえぇーんと五股の大根が立て掛けられていた

見れば見るほど見事な五股の大根に写心をくすぐられ、ニコンD70のシャッターボタンを押し掛けたが
誰の物とも定まらぬ物を勝手に写すのも心無い、おじさん其の大根・・売り物ですか?と聞いてみた
売り物じゃないけど、ほしけりゃ持っていきなぁ・・と早速、返事が返って来た。よし来た買ったぁ
ポケットに手を突っ込んでも文無しだった。何時もこんな調子で金には余り関心ないせいか
金が無いせいか一銭も持たずに家を出る癖が付いてしまっている自分を笑ってしまう
今、お金を取りに行って来るからと言い残し家へ帰り小銭入れを持って出て来た

何処かの おばあさんが小松菜と枝豆を買っている所で、野菜売りのお爺さんは新聞紙を手に持っていた
人を爺婆と云っていられないほど歳を取ってしまった菊竜だが、まだ若い気でいるから始末が悪い
七十を過ぎた菊竜爺は自分で買う事に決めた大根を誰に気遣う事無くデジカメで写し始めた
五枚の写真を写した所で客が途切れ、順番が回って来た所で五股の大根の前に立った
ところでお爺さん、此処に有る大きな大根・・おいくらぁ・・と菊竜は聞いてみた
ああー・・五十円でいいんだよっ・・大根はみんな五十円なんだから
えっ五十円?・・じゃぁ・・こっちで値段付けさせてもらうよっ

ポケットの中から小銭入れを取り出し五百円玉を一つ取り出した
じゃぁーお爺さん・・其の大根これで売って下さい・・そう云って手渡した
ええっ・・こんなに貰っちゃっていいのぉー・・・いやー済みませんねぇー有難う
然う云われたが、何故かこっちの方が嬉しくなってしまうのは如何してか判らなかった
新聞紙に包んだ五股の大根を受け取った時、其の重さに驚く、そりゃーそうだ五本分有るのだ
両手でしっかりと持って行かぬと五股の大根はバランスが悪い一本でも折れてしまえば値打ちが無い
第一、最初から天八大竜~達に御供えしようと心に決めて、五股の大根の値を付け買い求めた品物なのだ

綺麗に水洗い済ませタオルで水気を拭き、あれこれ向きを変えながら三方の上へ納めた
是の様な品物を天八大竜~達の~前に御供えする事など初めての事で、何故かわくわく嬉しい
早速、バッグからニコンD70を取り出し、広角18−200mmレンズ付きD70のファインダーを覗いた
如何にも、三方に乗せた五股の大根が、でででぇーん と手足を伸ばし子供を上に乗せ横たわっている感じだ
D70で写した写~をパソコンに納めた後、滅多に出来まい五股大根を作った農家の御爺さんに写真を上げる事にした
窓から公園を見下ろすと未だ野菜を売っている様なので、A4紙にプリントして階段を駆け降りて行くと店仕舞の最中だった
丁度其処へ、御爺さんの知り合いらしい二人のお婆さんたちがやって来て、何、終わりー大根無いのぉーと言ったりして見廻している
既に御爺さんに写真を上げた後だったので、遅いんだよぉほらほらっ、こんな立派な大根が有ったんだよぉーっと自分の写真を見せていた

翌、二十六日月曜日は、会社 手打屋の税務申告を済ませたと言って計理士が来た
是から決算書の説明を致しますと言う。然し、手打屋も今では代表者一人だけで健康維持の為
趣味として品物を作っている身には、会社が儲かろうと儲からなかろうと、そんな事は如何でもいいのだ
まあ良いから、今日は、上の天の~様の前に御供えしてある五股の大根があんたを待っているから見て帰りなさい
そう菊竜に云われ後に着いて~祀の間に来た計理士が、三方の上に乗せた五股の大根を見て歓声を上げた
ああーっ、顔があるーっ、まるで人間みたい! ええーっ面白い こんなの初めて見たぁーっ
面白いだろぉ、大根でさえ心を尽くせば、しっかり受け止めて喜んで呉れるんだよぉ

平成十八年六月二十八日、菊竜の母、菊の命日だ
何はともあれ心尽くしの菊竜風の経を上げ菊の花を供える
五股の大根は左の眉毛がくっきりとして、目も口もはっきりして来た
記念の写~を何枚か写す、斯して置かないと~が示した物は刻々と変わってしまう
三十日になって弟の所へ行っていた継母が帰って来た。髭の老師の行場で三年も水を被り
修行しただけの事は有って、~祀の間に入るなり壷の上に置いた五股の大根を見るなり気が付いたらしく
あんたっ、何っ喜んでいるのよーっと言葉を発して近づき繁繁と五股の大根に見入っていた
後から天八大竜~を参りに入って来た妹までも、この光景に驚き今更ながら畏まる
毎朝、妻と二人で変化して行く五股の大根を見ては天八大竜~に祈る
粗末には出来ない、御供えした五股の大根を戴く事にした
酒粕に漬け来年に目出度く、~前に御供えし戴く

然しながら、大根に心が有ると言う訳ではない。大根は只の大根だ
祝祷の器、口「サイ」に、八のように~氣が現れる事を「只」と云うのだそうだ
即ち、五股の大根は最初から菊竜が買い求め、天八大竜~の御前に供える事に成っていたのか
其れゆえに、朝の早い内から公園へ出向かせたのか、然も無くば何時も昼近くなってから出掛けて行くのだ
其れに、もうひとつ不思議な事があるのに気がついた。其れは是の野菜売りの御爺さんである
五股の大根と共にこの御爺さんの写真を四枚写した。四枚目は後ろ向きなのだが
一枚目も二枚目も三枚目も、皆、目を閉じて何かに感謝をしている

世の中は色々、人も亦、色々
御金儲かったから幸せ、って云うもんじゃないんだよねっ
何やっても楽しきゃ良い、って云うもんじゃないんだよねっ
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