初めてだった。
あれだけ二人きりで過ごしたのに。
あの日。
一面雪に覆われた世界で交わした接吻が初めてだった。
白い光。
きらきらした光は祝福してくれているように、見えた。
唇を指でなぞれば震える身体。
漏らされる熱い吐息。
揺れる瞳に見え隠れする羞恥の色。
まだ慣れないのだろう。
そろそろ慣れればいいと思いながら、この反応をまだ見たいと思う相反する心。
だから意地が悪いとはるは拗ねるのだろう。
しかし――。
(本当に慣れぬな。)
未だに初々しい反応だと思わず笑うと尖る唇。
思うにはるは本当に感情を素直に出す。
笑う時も怒る時もそして、泣く時も。
今も守が漏らした忍び笑いに拗ねる表情は結婚したとは見えない程あどけない。
それが彼女らしいと言えば彼女らしい。
くるくる変わる表情は鮮やかで、目が離せなくなってしまう。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか。」
「悪い。だが、もう慣れてもいいのではないか?」
暗に夫婦としてもう何ヶ月経ったのだと匂わせるとはるはその頬に朱を散らせた。
恥ずかしそうに視線を彷徨わせるはるに守は目を眇める。
あぁ、愛しいと思う。
己が絶対に守るのだと誓った相手だ。
溢れ出す感情を止める術を知らないし、止めるつもりもない。
「はる。」
名を呼べば跳ねる身体。
それでも目は彷徨ったまま。
視線が合わされることはない。
「……はる。」
もう一度名を呼ぶと観念したのかそろりと合わされる瞳。
ゆっくりと顔を寄せれば瞳が閉じられた。
重なった唇は熱い。
あの時もそうだった。
はるを迎えに彼女の故郷を訪れたあの日。
一面が白で染まった世界で初めてはると口付けを交わした。
一緒に過ごした期間は長くないのに――。
あれは二人の初めての接吻だった。
だから、忘れられない。
忘れる筈もない。
愛しい女と交わした口付けなのだ。
「守さん……。」
息の上がったはるの声がまた守の熱を煽る。
それが逆効果だと教えるつもりもない。
はるが知ったら怒るだろうけど。
ただ、確かめたいのだ。
あの雪の日感じた熱を。
はるが自分の側に居ると感じさせて欲しい。
だから抱き締めるよりも、守は接吻する事を選ぶ。
「はる。」
あの日感じた愛しい温もりは二年の歳月を経て守の腕の中に帰って来た事を実感する為に。
何度も、何度も――。
想いと熱を交し合う。
忘れえぬ熱
2010.08.16