(登場キャラ:土見稟・芙蓉楓・リシアンサス・ネリネ・時雨亜沙・プリムラ・カレハ・麻弓=タイム・緑葉樹)
「明日、何の日か覚えてるな?」
「え、明日…あ!私の誕生日です。」
突然のことに楓は一瞬キョトンとしたが、すぐにそれが自分の誕生日のことを示していると気付き、そう答えた。
「そうだ。それで明日、楓にプレゼントを用意しているんだが。」
「はい。でも…それは毎年のことでしたし、突然改まれたりしてどうしたんですか、稟君?」
「ああ…今年は今までとは全く違ったプレゼントなんだ。だから明日…明日の正午に、バーナベ学園の体育館に
来てほしい。」
「学園の…体育館、ですか?」
楓の言葉に、稟は頷いた。しかし、楓は稟が一体何を考えているのかが分からないままだった。
しかし、それでもはっきりした口調で、楓は答えた。
「分かりました。明日の、正午に体育館…ですね。」
その言葉を確認し、稟はそう呟いてリビングを立ち去った。
「ああ。…待ってるから。」
そして次の日。すなわち楓の誕生日。
いつもより遅く起きた楓は、すでにそこに稟の姿がないことに気付いた。
「稟君…」
少し寂しそうに呟いた楓だが、きっともう体育館にいるのだろうと思い、気を取り直して階下へ降りていった。
その頃、稟はリシアンサスや亜沙達と、体育館のセッティングや最後のリハーサルなどに入っていた。
「リンちゃん、そこにある紙テープ取ってくれる?」
「はい、シアちゃん。」
「りん、これはこの辺でいい?」
「ああ、ありがとな、プリムラ。」
「稟、俺様が最高のアドリブを考えたんだが…ぐぉっ!?」
「まったく、今忙しいんだからサボらないでよね!」
「まままあ、亜沙ちゃんとってもお似合いですの♪」
「あ、あはは…」
準備を続ける者、それを点検する者、中には遊んでいる(?)者もいたが、最終調整に向けて事は着々と進んでいた。
そして、全てが整った頃、時計も12時をさそうとしていた。
その時、体育館の使用を許可した撫子先生から連絡が入り、稟は準備完了の返事を返した。
そして、体育館の扉が開き、楓と撫子先生が中に入ってくる。2人を導くかのように照らされる照明。
ここに始まる、みんなから楓へ贈られる最高のプレゼント…
「ねぇ、あの噂って聞いた?」
「噂?それは一体?」
ある街の広場にて、2人の娘が何やら話し合っていました。
「明日、この街に引っ越してくる人がいるんだって。しかもその人、すっごく有名な人なんだって。」
「引っ越してくる有名な人?それってまさか…」
そこへ、娘達と親しい間柄の1組の男女がやってくるのであった。
「ああ、俺様もその話は聞いたよ。あの有名な土見財団の嫡男だってね。でも大丈夫。そんな男より、みんなには
俺様がブホッ!?」
「まあ最後の寝言は聞き流してもらうとして、その人、まだ付き合っている人がいるとかの噂がないから、ひょっとすると
チャンスかもよ、お2人さん。」
嬉しそうに話す麻弓だが、右手は樹の腹にしっかりとクリーンヒット…
話を聞いたリシアンサスとネリネ。口には出さないもののその土見財団の嫡男への憧れを抱くのであった。
そして翌日、土見財団の登場に街一同で出迎えた住人達。
「どれ?どれが土見稟君という人なの?」
「あの方ですわ、亜沙ちゃん!」
まるでパレードのような大盛況の中、オープンカーの後部座席から手を振る少年を見つけたカレハが声をあげた。
「へぇ、いい育ちのおぼっちゃんにしては、見栄を張るとか飾った風には見えないね。」
その頃、別の場所から稟の姿を見ていたリシアンサス達も、
「あっ、あの人だよリンちゃん!あの人が土見稟くんだよ!」
「まあ…あの方が、土見稟さまですのね。ほらリムちゃん、見えるかしら?」
「…あれが…りん…」
後に、稟を巡ることになる5人の少女達は、その姿をしっかりと目に焼き付けていたのでした。
「フッ、どんな男かと見ていたが、名声以外は全て俺様の方が優れていギャ〜!」
「こらっ!動くんじゃないわよ。写真がブレちゃうじゃないの!」
こんな、相変わらずの2人の姿もありましたが…
街の挨拶回りを終えた稟は、休憩と、街に慣れることも兼ねて自分の足で街の中を歩いていました。
「ふぅ、父さんの挨拶回りに付き合うのも疲れるな…」
そして、近くの自動販売機でジュースを買って飲んでいた稟に、一人の少女が話しかけてきたのでした。
「あ、あの…」
「え、俺?」
「はい。私、この街に住むリシアンサスっていいます。少し長いので、シアって呼んでもらっていいですけど、
土見稟くんですよね?」
「あ、ああ。確かに俺は稟だけど…どうしたんだ?」
「その、稟くんが街を歩いていたのを見たので、もしよければ街を案内してあげようかと思って声をかけたんだけど…」
「いいの?それは助かるよ。」
「やった〜!じゃあいろいろ案内するね、こっちこっち!」
そして、リシアンサスに連れられて街をまわる稟は、半日で街のいろいろなところをまわり、一時の安らぎを
得たのでした。
その帰り道、自分の家の近くにある公園へとさしかかりました。
「ラララーラララーララ…」
「ん?この歌声は一体…あ、あの子は…」
「ラララーララ…、あ…」
歌を歌っていたネリネは、稟の気配に気付いて歌を止めたのでした。
「あ、ごめん。邪魔しちゃったかな…でも、いい歌だったからつい聴きほれちゃって…」
「い、いえ、そういうわけでは…それよりも、あの、稟さま、ですよね?私、ネリネと申します。」
「ネリネって言うんだ。今日からこの街で暮らすことになるけど、よろしく頼むよ。」
「はい。」
「ところで、さっきの歌って…」
「あ、それは…ごめんなさい。その…」
「答えたくないなら、無理には聞かないよ。あ、俺そろそろ帰らないと。じゃ、また今度ね。」
こうして、2人の少女との運命的な出会いを果たした稟なのだった。(中略)
5人の少女と過ごす日々。しかし、突然稟に辛い事件が引き起こるのだった。
その日、失われていた記憶が稟の中によみがえった。
「…そうだ。思い出したよ。俺は、自分から逃げるために記憶を封印していたんだ。でも、逃げちゃいけない。
逃げちゃいけないんだ!」
そして、突然決まった土見財団の引っ越し。わずか3ヶ月のことに驚く住人だが、それ以上に5人の少女は大きな
衝撃を受けたのだった。
「稟くん!」
「稟さま!」
リシアンサスやネリネをはじめとして、稟に想いを寄せていた亜沙やカレハ、そしてプリムラが街の入り口で待っていた。
「! みんな…」
車を止めてもらい、慌てて車を降りる稟。そしてゆっくりと、5人の少女の前に歩み寄っていく。
「…稟ちゃん、ボク達に黙って行っちゃうつもりだったの?」
「稟さん…」
「りん…」
みんなの悲しそうな表情に、稟は一瞬、言葉を飲み込みそうになったが、勇気をふりしぼって口を開く。
「みんな…実は俺、昔の記憶を取り戻したんだ。俺は、ずっと自分の弱さから逃げ続けていたんだ。まわりからは
いいように言われてるけど、実はただの臆病者だったんだ…」
「そんなこと…」
「でも、俺はもう逃げない。だから、別れる前にはっきり言うつもりだ。俺には、好きな人がいるんだ。」
「えっ?」
台本では、この後稟がこの中に本当に好きな人はいない。その相手は、昔の幼なじみだと言って稟が退場し、
終わるはずであったが…
「それは、この中にいるんだ。」
「えっ!?」
その時、亜沙は台本と稟のセリフが違っていたことに気付いた。目で合図を送ろうとするが、次の瞬間、稟が向いた
方向を見てハッと気付いた。
「俺が好きな人は、そこにいる楓だ。」
「えっ!?」
観客席でじっと劇を見ていた楓は、突然自分の名前が呼ばれたことに驚いた。
しかし、稟は平然とした様子で舞台をおり、座っていた楓の前までいくと、手を差し出した。
「俺が一番好きな人は、楓だ。俺の気持ち、改めて受け取ってくれるか?」
「稟君…」
楓は嬉しそうに稟の手をとって立ち上がると、その場で優しく唇を重ねあったのだった。
「ま、稟のアドリブも俺様ほどではないが、大したもんだね。」
唯一、稟の様子からラストで何かあるなと感じて照明のところへ走っていた樹(中盤で出番終わり)が、上から
2人の様子を眺めつつ呟いた。
その後、みんなからこれが誕生日プレゼントだと伝えられた楓は、嬉しさのあまり思わず涙をこぼした。
「みんな…ありがとう…それから、ごめんね稟君。私、勝手に勘違いしちゃって。」
「いや、俺も楓に心配かけちまって悪かったと思ってるよ。でも、喜んでもらえて、俺は嬉しいよ。」
こうして、誤解を解き、最高の誕生日プレゼントをもらい、稟と楓はまた以前の恋人関係に戻ったのだった。
「…というわけで、稟ちゃ〜ん。」
突然、亜沙のいたずらっぽい声が聞こえた。
「え、な、何ですか亜沙先輩…」
「楓との仲直り企画に協力したんだから、借りが1つ残ってるよね〜。だから、ボクのお願い1つ聞いてもらおっかな〜」
「えっ!?そんなこと聞いてないですよ〜!?」
しかし、そんな言葉が通るわけもなく、その後稟は亜沙達のお願いを1つずつ手伝わされるハメになったのだった…
<完>