【手紙】
  1941・2・3  姉宛 高円寺
    

 姉上様。
 ボクは今こみ上げるくらいたのしいです。今「助六氏のなやみ」と云うキャクホンしなりをを八枚ばかりかいたところです。読んで見て、うまくできてたのでとてもたのしいのです。たのしいので筆をとりました。このシナリオは同人雑誌にのせるつもりです。この道へ進んだことはいいことだと思います。この「仕事をした楽しさ」は他では味わえないと思うのです。成功するしないのはともかく、この楽しさだけでも充分生きている価値があると思います。

 いい友だちもたくさんいます。ボクは女にはあまり好かれも尊敬もされないらしいが、男には好かれ尊敬されるようです。やの字が云いました。「お前さんのよさは女の頭ではわからん」

 頭をボーズにしました。いつもカスリのキモノに、つんつるてんのハカマをはいています。学校でもユニークな存在になりました。てらっているわけでもキザなわけでもないつもりです。ただ自然にふるまっています。

 おの字が云いました。「お前さんは、あらたまったり、きちんとした服装は似あわない。ボヘミヤンスタイルが板についとる」。又、おの字が云いました。「お前さんになら、オレの妹をやってもいい」「どうしてじゃ」「お前さんは女を不幸にせん男じゃ」めでたいことばかりです。ひょっとしたら、そのおの字の妹をもらおうかなと考えました。この家はお寺です。姉さんは神さんで、弟さんは仏さんと云うわけになります。そうなると、なおめでたい。

 めでたくないことには、春木日出雄のお父さんがなくなりました。これで思い出しましたが、大林さんにまだおくりものがしてないらしいですが、するのなら早くしておいて下さい。

 この間から少しカゼぎみで学校へ出たり出なかったりしていました。今もまだセキがでますがやがてなおることでしょう。この間のシャシン出来たら送って下さい。よく出来てたらやきましをして下さい。

 あまり夜ふかしをすると、又カゼを引きますからこのくらいで寝ます。


「日本が見えない」藤原書店発行 小林察編より