【手紙】
  1941・4・25  姉宛  高円寺 
                   

 拝啓、ごぶさた致しております。さて、のぶれば、私の誕生日は五月十二日でございます。そのとき、あなたさまは、私に何か贈物を下さるよし聞き及んでおりました。五円までくらいのもので、なんでもよしとのことでございました。そこで、なにがよかろうかと考えました。れこうども考えましたが、それよりも哲学辞典がよいと思いますから、それにして下さい。
 今、古川書店に売っているはずです。今、特価発売中で、三円半ぐらいだと思います。五月になると特価でなくなり、五円になるそうですから、今月中に買っていただく方がよいと考えます(日本評論社発行)。ベートーベンの赤いネクタイも送って下されば幸いと存じます。
 当分、見るべき活動写真は山田へ参らないと存じますが、「戸田屋の兄妹」がかかったら、一見しておかれればよいと考えます。
 その次に属するもの(気がむいたら一見されたいもの)では、
 「花は偽らず」(松竹)
 「東京の風俗」( 〃 )
 「討入前夜」(日活京都)
 「鳥人」( 〃 )
 これくらいのものです。舶来の活動は、何がかかるかわかりませんが、見ておいた方が得だと存じます。「大紐育」と云う活動は、見るだけ損ですから、ご注意まで。  以上。


「日本が見えない」藤原書店発行 小林察編より