【手紙】 一九四一・五・十三  姉宛 高円寺   (原文はカタカナであるが、ひらがなに直した)森

 十二日は、ぼくの誕生日でした。「お」の字は、おくりものに、キセルをくれました。
 「や」の字は、かびんをくれました。椎名町で、夕飯をごちそうしてくれました。夜の八時から、池袋で、おさけを飲みました。「お」の字と「や」のj字と「り」の字でした。さけ屋で、ぼくは、自分のつくった詩を、ろうどくしました。「お」の字がその詩をとてもほめて「ざんねんながら、すごい詩じゃ」と言いました。( 注 詩「五月のように」のこと)
 飲んで出てくると、「や」の字は、胃がいたいと言って、道端に寝ころんでしまいました。そこへ、お巡りさんが来て、ぼくたちを連れて行きました。交番の前で三時まで、せっきょうされました。お巡りさんにとっては、良い暇つぶしでしょうが、こちらは、そうはまいらず、なんだか、息ぐるしくなってきて、「ちょっと失礼」と、せっきょうの途中で、隅に行って、胃の中のものを、ドードー、と出しました。すると、お巡りさんは、興をそがれても、また始めから、せっきょうを始めます。そろそろ寒くなってきて、ようやく許しが出たが、三時ですので、電車もありません。椎名町の友だちの家まであるいて、そこに泊り、おかげで、今日は学校をさぼってしまいました。
  めでたさも  ちゅうくらいなり  おらがはる
 ちかごろ、たばこがありません。あったら、すこし送って下さい。たおるも、スフで結構ですから、送って下さい。

「日本が見えない」藤原書店発行 小林察編より