【ずいひつ】

      父の天文学について

 私の父は、どうしたものか天文学がすきであった。そしてそれが自慢でもあったらしい。
 夕方一緒に涼んでいると、かならず宇宙や星や地球や月や太陽の話を私に言うてきかせて、そして終わりに、これもかならず、大きなものや、あほみたいなものやと言って天をあおぐのであった。私も大きなものやと思うて、天を見ると、まるいまるい大空に、神武天皇から今までの時が経っても光がとどかないほど遠くにある天の川がとてもきれいに流れているのであった。
 父は一度、電車を待ちながら、そこにいたわかものをつかまえて、天文学の話しを聞かせたら、その若者は、はなはだ感心して、あなたは天文学者ですかと言うたそうである。そのことがよほどうれしかったと見えて、なんども人に言うていた。


「日本が見えない」藤原書店発行 小林察編より