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   忘却の彼国(かなた)

                                    橙 オレンジ


 今すぐに行かなければ。彼女の家はどっちだったっけ? 西? 南? 確か森を抜けて……いや、川に沿って行く……ああ、こんなときに俺は何をしているんだ。しっかりしろ。彼女を守れるのは俺しかいない。行くんだ。こっち……だったかな? よし、急ごう。俺が彼女を救うんだ。
 彼女? 名前は何と言ったかな? ユリ……いや違う。花の名前じゃなかった。アメ……近いぞ。ユキ……うん、近くなってきた。ユキコ、ユキエ、ユキオ、ユキノ、ユキナ……そうだ、ユキナだ。何てかわいい名前なんだ。彼女にぴったりだ。だって彼女、雪の中に隠れて目だけで様子をうかがうウサギみたいなんだもんな。
 おい、俺、暴走気味だぞ。ユキナのところへ、何をしに行くつもりだったんだ? ……呼ばれてたわけじゃないよな。何か用事があったはずなんだけど。……そうだ、何かおめでたいような、そうでもないような……誕生日……は違うだろ。ユキナは十三月生まれだもの。……あれ? 十五月だったかな? どっちでもいいや。とにかく違うんだ。……思い出した。結婚だ。結婚のお祝い? 何か違うな。もっと重大で深刻なんだ。
 ユキナは誰と結婚するんだったかな? どこかの国の王子だったはずなんだけど。どこの国だろう? ……あっち、むこう、とおく、かなた。そう、何とかのかなただ。何だっけ? 忘れることに関係があったはず。……忘れ物のかなた、物忘れのかなた。いやいや、そんな簡単な言葉じゃなかったみたいだぞ。忘れ……ぼう……ぼうしゃく、ぼうしゅく、ぼうきゃく、ぼうきょく……ん? ぼうきゃく、忘却だ。思い出したぞ。忘却の彼国。そうか、ユキナ、忘却の彼国のお姫様になるのか。きれいだろうな。ドレスなんか着ちゃってさ。宝石のいっぱいついた冠、かぶるのかなぁ。
 ……おい、ちょっと待てよ、俺。忘却の彼国だって? 大変じゃないか。忘却の彼国へ行くってことは……何もかも忘れてしまうってことじゃないか。何もかも……何もかも、だ。この国や家族のことや……そうだ、愛さえも。ユキナ、行っちゃダメだ。
 ところで、俺、どうしてユキナにそんなにこだわるんだ? 今まで忘却の彼国にはたくさんの女の子たちがお嫁さんになっていったじゃないか。そんなこと一度も気に……本当か? 一度くらい気にかけたことなかったか? ……いや、とにかく気になんてしてこなかったんだ。
 ユキナは俺の何だ? 妹……じゃないよな。だって俺の苗字はクモで、ユキナは……思い出せないや。でも、クモユキナじゃないことだけは確かだよ。格好つかないもの。……って言うことは姉さんでもないし、母さんでもないし、娘でもないし、奥さんでもない。
 ……思い出してきた。ユキナは俺の大切な人だ。俺は……そう、思い出した……俺はユキナが好きなんだ。
 どうして俺、こんなに大事なことを忘れてしまっていたんだろう? もしかしたら、俺の方が忘却の彼国にふさわしいのかもしれない。
 いや、俺こそが、きっと忘却の彼国の王子なんだ。そうだ、間違いないよ。ねぇ、ユキナ、そうだろう?

                                              (完)








オリジナル小説
2003.5.8