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   初恋の人

                                                                    橙 オレンジ

 向かいの家に住んでる一歳上のお兄ちゃん。トモヤ君。幼稚園からいつも一緒だった。家族ぐるみの付き合いってヤツで、よく一緒に川原でバーベキューとか、温泉旅行とか、あちこち出かけたものだ。
 幼稚園のころには、いじめられっこの私をいつも助けてくれるのは、トモヤ君だった。泣いていると、しわしわになったハンカチを、こっちを振り向きもせずに渡してくれた。「大きくなったらトモヤ君のお嫁さんになるの」自慢げにみんなに言いふらしていた私。
 いつのころからだろう。お母さんは私がトモヤ君の名前を出すとあからさまにいやな顔をするようになった。
「ユカリ、もうトモヤ君と遊ぶのやめなさい」
「どうして?」
「どうしてもよ」
 そんな会話を何度繰り返したことか。私には、そのときどうしてお母さんが急にトモヤ君を嫌うようになったのか、どうしても分からなかった。
 そのころには、もう家族ぐるみの付き合いも、すっかり薄れてしまい、道端で会えばあいさつだけをして足早に去ってしまうようになってしまっていた。
 そのうち、私は塾に通うようになった。私立中学を受験すると言うのが親との約束で、そのためには塾に行ったり、面接の講習会に親子で行ったりするのは、ごくごく自然なことだった。
 次第に、私には塾の友達が増え、当然その中には頭のいい男の子たちも何人かいて、いつの間にか、私はトモヤ君と友達でいることが恥ずかしいと思うようになった。こんなに大きくなったのに、掛け算も5の段までしかいえないトモヤ君。運動会になれば、一生懸命走って、派手に転んでしまうトモヤ君。帰り道には、体の大きな男の子たちに、かばんを持たされて、それでもへらへらしてる。見ていられなかった。私はいつしか、学校でトモヤ君と顔をあわせると、うつむいて知らん振りするようになった。――仕方ないよ。もうトモヤ君と私は別の人だもの。自分で自分に言い訳をして。でも、どこかで自分のずるさに体が火照る思いの自分がいた。
 居心地の悪い学校には休まずに行っていた。でも、教室でも私は塾の勉強ばっかり。だって学校の授業なんかもう全部塾で習ったもの。早く塾の予習復習やらなくちゃ、遅れちゃう。
 でも、学校の先生の目には、私はクラスの和を乱す邪魔者に見られていたみたいだ。
「ユリカさん、教科書出してないじゃないの。何やってるの。ちゃんとみんなと同じ勉強をしなさい」
 ヒステリックに響く先生の声。私はそんなの聞いてられない。と、先生がつかつかと歩いてきて、塾のワークを取り上げた。
「先生の授業が聞きたくないなら廊下に立っていなさい」
 私は無視してやろうかとも思ったけれど、クラス中のみんなが冷たくこっちを見ているのに気づいて、仕方なく席を立った。
「おう、ユリカ、久しぶりだな」
 声をかけてくれたのは、六年生の教室の前に立たされている、トモヤ君だった。
「珍しいじゃん、成績優秀のユリカが立たされるなんて」
 私は顔がカーッと熱くなるのを感じてうつむいた。
「何したんだよ? でも、ま、お前のところの先生、厳しいからな」
 トモヤ君は私のすぐ隣までやってきてそう言った。
「気にすんなって。立たされんのなんかどうってことねぇよ。お前なら授業聞いてなくたって分かるんだろうし、な」
 急に頭の中を二つの言葉がブレンドして反響する。「大きくなったらトモヤ君のお嫁さんになるの」「もうトモヤ君と遊ぶのやめなさい」今じゃもうその意味もよく分かっている。
 ますます顔が熱を持ってきたみたい。きっと真っ赤な顔しているんだろうな。
「お前、顔赤いよ。熱あるんじゃないの?」
 トモヤ君は何を思ったか、私のクラスに入っていった。
 しばらくして戻ってくると、言った。
「さ、保健室行こう」
 なんだか涙があふれた。初めは軽く、それから次第に激しく、私は嗚咽をもらした。
 どうして私はトモヤ君と離れたんだろう。あんなにいつも優しかったトモヤ君と。お母さんが言ったから? 多分違う。そうじゃない。トモヤ君が劣等生だからだ。恥ずかしかったからだ。
 でもそれが何? こんなに優しいトモヤ君。あんなに大好きだったトモヤ君。トモヤ君はそっと私の肩に手を置いた。
「ほら、ついてってやるからさ」
 保健の先生はいなかった。トモヤ君は私をベッドに寝かせると、棚を開けたり引き出しを開けたり、何かを探し始めた。
「熱測ってやりたいんだけど、体温計どこにあるんだろ」
「トモヤ君、いいよ。きっと熱ないから」
「頭とかお腹とか、痛いとこある?」
 私は首を振ってじっと自分の胸の辺りを見ていた。
「胸が痛いの?」
 まじめな顔でそんなこと言うから、私は笑ってしまった。
「今度……」
 私の声は消え入りそうに小さかった。
「ん? 何?」
 スーッと息を吸って、早口に言った。
「一緒に遊園地に行かない? 塾、一日くらいなら休んで大丈夫だし。ほら、昔よくみんなで行ったじゃない」
 トモヤ君は寂しそうな笑顔を見せた。
「ほら、お前の父さん、忙しいし。母さんだって、なぁ。うちだっていろいろあるしさ。もう昔みたいにはいかないよ」

 トモヤ君の笑顔は、とってもきれいだった。それなのに、どうしてこんなに悲しそうなんだろう。
「違うよ。二人でだよ。お母さんにもちゃんと話すけど。でも文句なんか言わせないんだから」
「何でだよ? 俺と?」
「だって……」後は言葉にならなかった。
 トモヤ君は初めてうつむいた。こんなのトモヤ君らしくない。そう思った。いつも守ってくれたトモヤ君。でも私はそのお返しもできなかった。ありがとって言う前に、いつもいなくなってしまう。
 でも。
「いいから一緒に行こうよ。今度の日曜日。空けといてね」
 もし、トモヤ君が一緒に遊園地に行ってくれたら。そのときこそ言おう。ありがとう。そして……。
 トモヤ君のために早起きしてサンドイッチを作ろう。ジェットコースターにいっぱい乗って、お化け屋敷にも入って、コーヒーカップにも。それから、ちょっと子どもっぽいけど、メリーゴーランドはだめかな。最後には二人で観覧車に乗ろう。                                                                                  (完)






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