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オリジナル小説ワールドおれんじ物語テーマ小説>一人にしないで
   一人にしないで
                               橙 オレンジ

「一人は……イヤだよ……」
 ミユは声を聞いていた。誰かがすすり泣いている。か細い……子どもだ。何も見えない。自分がどこにいるのかも分からない。声がどこから聞こえてくるのかも。だってそれは広いホールにいるみたいに複雑に反響して、方向も距離もまるで分からない。
「誰? どこにいるの?」
「一人に……しないで……」
 声は次第に細くなって消えていく。響きだけがいつまでも残った。
 ミユは目を覚ました。これで三日連続だ。同じ夢。誰かが呼んでる。その感覚は妙にリアルだった。
 やっぱあれかなぁ……。
 夏休みが始まった日。ミユはクラスの友達とお化け屋敷、に行った。お化け屋敷、というのはミユたちの間での呼び名であって、遊園地のお化け屋敷じゃない。
 レンガ造りの洋館で、ツタが絡まっている。広い庭には噴水があって、ヨーロッパ風の。けれど今は誰も住んでいない。
 噂があった。出るらしい。男の子の幽霊。そんなわけで、お化け屋敷、だ。
 そういうのって誰でも覗いてみたくなるわけで、ミユたちのお化け屋敷探検は夏休みの初日に敢行された。
 洋館の中は白っぽくかすんで鼻をついた。外はジリジリ日が照っているというのに、カニ工場の中のようにひんやりと冷たい空気が漂っている。いつか人が住んでいたという事実さえ、疑わしい。
 ミユたちは全ての部屋を回った。トイレやお風呂まで。階段を上ると、踊り場に大きな鏡が合った。曇ってはいたけれど、周りに金の彫刻がついた、立派な鏡だ。
「あ、ミユが映ってない!」
「バカ。何言ってるの」
 アハハハハ。みんなは笑って家を出た。けれど、そこを出るとき、ミユは声を聞いた気がした。
――帰らないで……お願い……。
 振り返ってみたけれど、やっぱり誰もいない。
 夢の声はあのときのに似ている気がする。自信を持って言い切ることはできないけれど。でも思い当たるのはそれしかない。
 母親が出掛けると、ミユの足は自然とあの洋館に向かった。ドアを開ける。ギーッと重たいような音がした。ちょうど風が吹いた。冷気がミユを包む。自然と息を潜めていた。靴を脱いで、足音まで殺して歩く。
 あのときは、二階から降りてきて、鏡の前でふざけて、外へ出るときに声が聞こえたんだったっけ。
 忍び足で階段を上る。
「キャッ!」
 突然目の前に子どもが現れた。踊り場の鏡の中だ。ミユと肩を並べた男の子。背中に冷たい感覚を覚えながら、ゆっくりと振り返る。誰もいない。
「来てくれたんだね……うれしいよ……フフフ……」
 鏡の方に向き直る。顔の色がサーッと退いたような蒼白色の背の高い男の子。カーン……。手に持っていた携帯電話が落ちた。床に当たって冷たい音が響いた。
「嘘……でしょ……」
ちょっと待ってよ。私霊感あるほうじゃないし。でも見ちゃった。どうしよう。
金髪のハーフみたいな顔立ち。ほんのちょっと微笑んだ。
どうしよう。
「待ってたよ……一人は寂しいんだ……」
 男の子の声は広い屋敷の中で反響した。夢で聞いた、あの感じ。
「……あなた、誰?」
 声が震えていた。足が動かない。息苦しい。
「そんなに怖がらないで……僕は寂しいだけなんだ……」
 バタンッ! 
「ヒッ!」
開けっ放しにしていたドアが閉まった。屋敷の中がうす暗くなる。
「ごめん……脅かすつもりは……僕いったん消えるから……そこにいてよ」
 スーッと男の子はいなくなり、髪にウェーブのかかった背の低い女の子がポツンと映っているだけ。紛れもないミユの姿。
 ドスンッ! ミユはその場に座り込んでしまった。
「何なの、一体?」
「びっくりさせてごめんね……来てくれてうれしかったから……」
今にも消え入りそうな声。さっきの男の子?
「ずーっと一人なんだ。何十年もずーっと……だから、君が来てくれてうれしかった……ウフフフ」
 ミユは頭をぶんぶんと振った。目をぎゅっとつぶってみる。
「僕たち……友達になれないかな?」
「友……達……」
 目を開けると男の子は控えめに鏡の中のミユの後ろから覗いている。ちょっと潤んだ茶色の目を見たら、断れなかった。体の緊張はほんの少し解けた。ミユはその場に座りなおした。友達。
 毎日洋館に通って、ミユの夏休みはあと一日となった。バターのにおいに起きていくと、母が珍しく深刻な顔で覗き込んだ。
「ミユ、あんた最近顔色悪いわよ。どっか痛いところある? 病院に行ったほうがいいかしら。今夜行きましょ。夜、母さん帰ってきてから夜間の病院探すから」
「え、別にいいよ。具合悪くないし」
「そう? ……あ、それから、あんた、あのレンガの家、行ったでしょう? 見たっていう人がいるのよ。もういっちゃだめよ。何があるか分からないんだから」
「何かって?」
「あそこね」
 母はミユの隣の椅子に座り、ミユの肩に手を置いた。
「母さんが生まれる前よ。……子どもさんが失踪したらしいのよ」
「……ねぇ、……その子どもって、ハーフ?」
 母は突然フフッと笑った。
「何言ってんのよ。何もあるわけないじゃない。ねぇ? ……でもね、ご近所のクラハタさん、うるさいのよ」
 失踪した子ども……。
 ミユは母親が出掛けたのを確かめると、携帯電話とお財布をジーンズのポケットに突っ込み、洋館へ行った。
 階段を上って踊り場へ。鏡の中にはいつものとおり、血色の悪い男の子。
「ねぇ、あなた、どうして死んじゃったの?」
「それはね」
 鏡の中で男の子は微笑んだ。突然、声が変わった。
「こうやってさ」
男の子が言った瞬間、鏡の中から何本もの青白い手がぬっと出てきた。手はものすごい力でミユをつかんだ。そして、抵抗をする間もないうちに鏡の中へ引きずり込んでしまった。
開いたままのドアがギーッと音を立てた。生ぬるい風が吹いた。
                                      (完)





テーマオリジナル小説
2004.2.18