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   滅亡は破壊の隣に
                                                                         橙 オレンジ


 コツリコツリ、いくつかの足音が重なる。
 壁も床も天井もすべて真っ黒に塗りつぶされた部屋には、白いガウンのようなものを着た、白髪、白髭の老人。年齢は分からない。もっとも、この施設に収容されているものは素性が分からないという点では一致している。
 腰の低い施設関係者が、黒いスーツに揃いのメガネをかけた三人の男をその部屋の前に導いた。特徴という特徴が見出せない三人の男だ。どこかでまたで会うことがあったにしても、気づかずに通り過ぎてしまいそうな、そういう類の男たち。政府から来た使節団だ。
格子窓のついた分厚い扉の外から、三人のうちの一人が聞いた。
「この部屋はどうしてこんなに真っ黒なんです?」
 施設関係者は説明する。
「はぁ。どうもこの部屋の住人はこうでなくては落ち着かないようで。彼には彼なりの秩序があるんですわ」
「この男は何を?」
 白ガウンの男は鉄の扉に背を向け、しゃがみこんでせっせと腕を動かしている。
「石を磨いてるんですわ。あの石が彼にとっては秩序の中心なんで。おもろいもんで、あれ、一日一回まわすんです。昔の時計のねじを回すみたいに」
「一日中そんなことを?」
「まぁ、そうです。ここにいる人間の一日なんて、どれをとっても同じようなもんですわ」
「ほぅ……」
使節団の一人が鉄格子に手をかけ、興味深く覗いた。
「きれいなものなんでしょうかねぇ、あの石」
「さぁねぇ。あたしもこの鉄格子の外からしか見たことないんですよ。何やら青と緑の模様の石です。でもあんなに小さいものをここから見たってきれいかどうかなんて分かりません。彼は見せてくれようとしないんですわ。大事な秩序ですからねぇ。部屋の中に入れてもくれませんわ」
「部屋の中に入れない? そんなことはないでしょう。入らせてくれませんかねぇ? 彼と話がしてみたい」
 彼は三人の中では特に好奇心が強いのかもしれなかった。あるいは、長年男が磨き続けるほど大切なものだ、高価なものと思ったのかもしれない。
「何年ぐらい彼はここに?」
「さぁ……。私が着たときにはすでにいましたねぇ」
 施設関係者は肩をすくめた。
「ちょっと聞いてみますわ。『神さん』、ちょっと中に入れてもらえんかな?」
『神さん』という呼び方を聞き、三人は互いに顔を見合わせた。
 中の男はチラッと肩越しに三人と施設関係者の方を見たが、すぐに顔を戻し、再び石を磨き始めた。
 施設関係者は再び肩をオーバーにすくめて見せた。
「いつもこうなんですわ」
 しかし、使節団の男は強引だった。
「鍵を持っているんでしょう?」
「えぇ、しかし……」
「彼はダメだとは言っていない」
「弱りましたなぁ」
施設関係者は使節団の男を見やった。男はあくまで真剣だった。
「……分かりました……『神さん』、悪いね、開けるよ」
 かちりと錠が外れる音がして、扉が開いた。
 施設関係者の男は扉を手で押さえたまま、申し訳なさそうに『神さん』を見た。彼は相変わらず、黙々と石を磨いている。
 三人の男たちは黒い聖地にずかずかと入ってきた。『神さん』はそれでもまだ黙々と緑と青の混じった石を磨いている。それは『神さん』の手にすっぽり収まるこぶし大の石だった。
「ほぅ、なかなかきれいな石ですねぇ。色合いもきれいだし、何より正確な球に近い。光沢もありますねぇ。トルコ石にも似ているようだが、こんな石は見たことがない。ちょっと貸してもらえませんか?」
 使節団の男は模範的な微笑を見せた。『神さん』は彼に一瞥を投げ、すぐにまた石を磨き始めた。
 使節団の男はほんの一瞬眉をしかめた。しかし、一瞬のことだった。彼は話を変えた。
「『神さん』、こんな真っ黒の部屋にいて気が滅入りませんか? この近くにね、大きな施設ができるんです。原子力の施設です。そうしたらね、ここの施設にも国からもっとお金が入るんです。いい話でしょう? そうすれば、こんな真っ暗でかび臭い部屋じゃない、もっと明るくて清潔な部屋へ移れますよ」
『神さん』は、今度は顔を上げさえもしなかった。彼は黙々と石を磨き続けた。
 使節団の男は口の中で小さく舌打ちをした。
「さ、皆さん、こちらへどうぞ。原発を作る土地は……」
 施設関係者の男は三人の使節団を促し、かちりと鍵をかけて、『神さん』の部屋を後にした。
「秩序を乱すもの、滅亡あるのみ」
『神さん』の重々しい言葉が四人を追いかけた。
 その瞬間、ズンと重い音がしたのを、四人は生きて聞いたかどうか……。
地球の最後の瞬間を誰も知らなかった。それを真っ黒な床に投げつけて割った、白ガウンの老人の他には。

                                                                               (完)







2003.12.17